第三部 1979年
迷走する西ドイツ
脱出行 その3
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黒く短いダブルブレストの上着に、黒のズボンに黒革の長靴。
意匠こそ戦時中のドイツ戦車兵制服に似ていた。
だが、色合いと言い、徽章や勲章の配置と言い、武装親衛隊の黒い制服を思い起こさせるものであった。
ソ連の政府機関紙「イズベスチヤ」紙上において、「武装親衛隊の再来」と評されるほど。
ソ連のプロパガンダ宣伝のも、仕方のない事であろう。
西ドイツ軍では珍しく、これ見よがしに短剣やサーベルを帯びていることが許された部隊であった。
戦後の西ドイツ軍では、ナチス時代の反省として、銃剣、サーベルなどの刀剣類はすべて廃止となった。
精々許されるのは、バターを切るための十徳ナイフぐらいで、格闘用の短剣さえ忌避された。
その為、プロイセン王国の騎兵を手本とした第44戦術機甲大隊の刀剣類を尊重する文化は、極めて異質だった。
現代の日本人として、ナチス時代にさほど忌避感のないマサキでさえ、黒の制服には驚くほどであった。
「まず……お掛け下さい」
ドリスの夫を名乗る男は、胸の前で、サラリとパイプを出して、火をつけた。
ラムリキュールと柑橘の香を放つ紫煙をくゆらしながら、徐々と語りだした話はこうである。
男の話では、彼は代々地方貴族の出で、爵位は男爵。
半年前に、第44戦術機甲大隊に配属になったドリスと知り合い、結婚したのだという。
1972年以前は、オランダのライデン大学で日本研究をしてたと言う人物だった。
BETA戦争が起きてから、新設されたドイツ連邦軍大学に入り、正規の将校教育を受けたという。
自己紹介を終えた後、自然と話は、日本に関することに向かった。
BETA戦争での日本の事やら、富士山や松島と言った景勝地に関するなどである。
その内、黙っていたドリスが、マサキの気になるようなことを言った。
日本の帝室に関してのことである。
「前の戦争で負けた後、皇帝はどちらにいられますか。
退位されて、どこか外国にお逃げ遊ばされたという話を、寡聞にして知りませんので……」
欧州では、いや世界では敗戦国の君主の扱いは、惨めだった。
ドイツのカイザーは、ともかく。
オーストリーハンガリー帝国、イタリアやルーマニアの王室もみな、追放の憂き目にあった。
敗戦こそしなかったオランダ、デンマーク、スエーデンの王室は、占領に際して海外に避難した。
だから、米国に7年の間占領されている日本の皇室は、滅びたものばかりと思って、ドリスは尋ねたのだ。
「宸儀は、今も昔も、御座所の九重の奥にあって、日本全土を領ろし召されている」
ドリスは一瞬、驚きの表情を浮かべ、口を開ける。
欧州の歴史では、世界の常識では考えられない。
キルケは何気なく帝室の歴史について聞いた。
それは全く歴史を知らない子
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