第三部 1979年
迷走する西ドイツ
脱出行 その1
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話交換手に繋がった。
「もしもし……こちら、鎧衣左近です。
情報省外事2課の……」
電話料金がどんどん上がっていくが、鎧衣は気に出来るような状況ではなかった。
電電公社(現在のNTT)を、例に出す。
当時の区域外通話料の代金は、昼間の時間台でも2.5秒で10円ほど。
ちなみに国際電話は、それ以上であった。
1981年当時の国際電信電話株式会社の例だと、英国までで6秒90円と非常に高価だった。
「さっそくですが、御剣閣下をお願いしたいのですが……」
「御剣は、今不在でして……」
「打ち合わせで、出ている?
それでは戻られたら、西ドイツのミュンヘン総領事館まで電話をくださるよう伝えてください」
電話を切ると、両切りタバコの「ロス・ハンドル」に火をつけた。
普段愛用してる葉巻を切らしてしまったので、仕方なくドイツ煙草を買ったのだ。
「うむ、間が悪いな……」
初めて買う銘柄ではあるが、三級品の「しんせい」に似た風合いである。
二口ほど吸った後、足元に捨てると踏みつぶした。
「もしもし……中央情報局本部ですか。
いますぐ長官をッ。
日本の鎧衣左近からとお伝えください」
日本代表部と違って、交換手は即座にCIA長官に繋いでくれた。
長官のさわやかな声が、鎧衣の耳朶を打つ。
「鎧衣くん、わたしだ」
「長官、ご無沙汰しております」
「私は元気だよ。
どうだね。無理をしているんじゃないかね」
「昨日のインドの件は、大変お世話になりました」
「そんなのは、礼には及ばんよ。
最重要友好国の日本のためにした事さ。当然の事だよ」
「実は、ハウスエンボスの老主人から、私と木原君が追われていまして……」
ハウスエンボスの老主人という言葉に、長官の表情が険しくなる。
これは蘭王室の国婿殿下を示す暗号だったからだ。
「ウンッ、それより何があったんだ……」
「まあ、聞いてください」
鎧衣は、これまでの経緯をおもむろに語りだした。
彼が語り終えて、一息つくとまもなく長官が口を開いた。
「少し待ってくれ、君の家にファックスを送るから」
君の家とは、日本の諜報機関の総元締めである内閣調査室である。
これは、情報省の幹部とCIA長官周辺だけが知る暗号であった
CIAからの電報は、即座に内閣調査室から帝都城に伝えられた。
急遽そこで、五摂家および政府首脳による臨時の閣議が行われていた。
「西ドイツ滞在中の二人がな……」
「ああ……CIAがファックスを突然送付してきた」
「西ドイツ政府の動向は!」
「ドイツ連邦検察庁が逮捕状を請求したとの、ミュンヘン総領事館から報告が上がっております」
「由々しき事態だ」
口々に好き勝手な事を言う閣僚たち。
そこに、首相が口をはさんだ。
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