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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第103話 憂国 その3
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情緒あふれる弁舌で頭角を現し、与党内における派閥の一角を構成する力を見せてきたが、ここ最近一気に羽振りが良くなっているのが目についた。派閥の一角から有力派閥の頭領として伸し上がってきた背景に何があるのか。そのタイミングはどのあたりか……

「それがマーロヴィアの治安回復作戦を成功させたあたりからです。トリューニヒト氏本人の政界におけるタフな力量は注目されるところでしたが、マーロヴィア以降は『トリューニヒト派』という次元にランクアップしている」
「なるほど」
 ぶっちゃけ星間運輸業界のバックアップが本格化し、それにつられて公共事業に関わる他の産業もトリューニヒトへの支援を始めたからだ……が、それを氏に言う必要はない。
「マーロヴィアの治安回復作戦……確かコードは『草刈り』でしたか。ちゃんと軍公文書館に申請したのに、出てきた書類は墨塗りの機密だらけ。まぁ海賊相手ですからな、情報の出し渋りがあるのは仕方ありません」
「で、小官に聞きに来たと?」
「私は軍人ではありません。作戦の内容を事細かに見ても良し悪しなど理解できません。ですが以降のマーロヴィア星域の経済規模拡大は、ここ数年では特異な数値を出している」
「経済産業長官のイレネ=パルッキ女史は、まさに女傑というべき人物ですよ」
「『辺境流刑地の女王様』ですな。実際にお会いしてきましたよ」
「ほう。わざわざ五〇〇〇光年も?」
「なにしろジャーナリストというのは好奇心の塊が人間の恰好をしているような者でして……で、女王様に拝謁して経済発展の要因を率直に伺いましたら、絵図を作ったのは管区司令だったビュコック提督ではなく、管区次席参謀だった中佐であると仰いましてね」

 女史は意外と煽られ耐性がない人だったから、パトリック氏の挑発に上手い具合乗せられて喋ってしまったのかもしれない。頭キレキレ心カリカリの、薄い胸をしたパルッキ女史を思い浮かべると自然に頬が緩む。だが言い終えたパトリック氏の目はそれまでにないほど真剣なものに変わっていた。

「それでボロディン中佐。『女王様の懐刀』だったあなたにお伺いしたい」
「なんでしょう」

 恐らく面倒な質問であろうとは想定できるが、どう答えるにしろちゃんと手続きをしてきた以上、こちらも真剣に応対しなければならない。ティーカップを皿に戻してパトリック氏の目を正面から見据えると、氏は一度唾を飲み込んでから口を開いた。

「トリューニヒト氏は実際のところ、マーロヴィアでどれほどのことを成し遂げられたんです?」

 氏の口から出た問いは、やはり面倒で、色々な意味で答えにくいものだった。



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