暁 〜小説投稿サイト〜
渦巻く滄海 紅き空 【下】
八十四 四代目の子
[4/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
「え…」

そんな馬鹿な。


奇跡を目の当たりにした。
そう思わずにはいられなかった。

あれだけの重体。
綱手様でも手に負えないはず。

折れた足も穴の開いた肩も、そんな負傷は最初からどこにも無かったとでもいうように。


安定した様子で胸が上下するシカマルを、ヒナタは診る。
もう安心だと頷く彼女に、ほっと胸を撫で下ろし、いのは空高く舞い上がる蝶々を見上げた。


弧を描きながら、蝶は天高く飛翔する。
その行方を視線で追おうとしたが、ごほっと意識を取り戻したシカマルのほうへ、いのは反射的に視線を向けた。

「シカマル!」


幼馴染の容態を診るいのに代わって、ヒナタは空を見上げた。
僅か数分で、自分達には手に負えない治療を施した蝶々を見送る。



蒼穹の空へ虹を描くように飛ぶ美しいソレらが、彼女にはまるで神の御使いのように見えた。



















《やめろ小娘、死にたいのか》

怒りに呼応して、チャクラが漏れゆく。
宿主である波風ナルに向かって、彼女の中から停止の声を荒げる。

《聞いておるのか、おい小娘…!》


苛立たしげに、九尾は────九喇嘛はナルの内から怒鳴り散らした。


べつに、彼女に気を許したわけではない。だが己の力を好き勝手に使われるのが我慢ならないだけだ。
そう、事が終わった後に、故郷を失ったと嘆くナルの未来が予測できて、うじうじ泣く彼女にうんざりしたくない。
それだけだ。

そう言い聞かせてはいるが、既にナルに絆されている九喇嘛は、宿主を止めようと檻の中から声を荒げた。
封印されている身、己を閉じ込めるこの檻が忌々しい。

特に、檻に貼られている封印の札。
封印術を施したあの男が憎いのであって、宿主であるナルは憎からず思っている九喇嘛の喉が知らず知らずのうちに、グルルルル…と鳴った。



もはや木ノ葉の原形はない。
逃げるペイン天道を追い駆けて、里から離れたナルの動きが突如、止まる。

首飾りから放たれた光が拘束せんと彼女を縛った。
綱手から貰った初代火影の首飾りには、カカシやヤマトが掛けておいた封印術が施されている。

その拘束から逃れようとして飾りを破壊しようとしたナルの手をなんとか九喇嘛は停止させることに成功させた。
破壊ではなく、首飾りの紐を引き千切るだけに留めていく。
引き千切られた首飾りはキラキラと光を放ちながら、音を立てて地面に転がった。


《まったく世話の焼ける小娘だ…》

あの首飾りを亡くせば、どうせまた宿主は後悔する。
落ち込む未来を阻止してやったのだから感謝しろよと思うが、依然としてナルは怒りで我を忘れていた。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ