第一章
[2]次話
主力を流出させるな
父の跡を継いで社長になったばかりの中込勝家は父の正家、自分がそのまま初老になった様な外見の彼から言われていた。勝家は面長で鍵爪型の眉に切れ長の奥二重の目できりっとした小さい口元で茶色がかった髪の毛を真ん中で分けている。背は一八〇位で引き締まった体格をしている。
「社員あっての会社だからな」
「よく言われるよな」
息子もまさにと応えた。
「本当に」
「だからな」
「社員の人達は大事にだよな」
「間違っても巨人みたいなことはするな」
邪悪に満ちたこのプロ野球のチームの様にはというのだ。
「選手は使い捨てでな」
「外様は特に」
「生え抜きのスター選手以外は監督にしない様なな」
「そうしたことはしたら駄目だな」
「ああ、やる気があって真面目ならな」
そうした社員はというのだ。
「見捨てずな」
「育ててだよな」
「そしてだ」
父は三十代に入ったばかりの息子にさらに言った、二人共スーツ姿でそのうえで行きつけの焼き肉屋で一緒に食べながら話している。
「いい社員は絶対にな」
「他の会社に出さない様にか」
「そうした待遇をだ」
「することだな」
「巨人でなくても変なところは自分と合わないとかな」
「そう言ってか」
「追い出すがそんなことはな」
絶対にというのだ。
「するな」
「そうすることだな」
「どんな会社も人材がいないならな」
「やっていけないな」
「若し自分より優れていると思ってもな」
「嫉妬しないでか」
「功績は褒めて認めてな」
そうしてというのだ。
「待遇をよくしろ、会社全体で待遇は全社員に出来るだけな」
「よくするんだな」
「そうしたら社員は会社に残って」
そうなってというのだ。
「やる気も出る、だから会社を続けたいならな」
「待遇をよくしてか」
「社員をよそに出て行かせずな」
特に優秀な社員をというのは言うまでもなかった。
「やる気を出させるんだ、いいな」
「ああ、俺もいい会社にしたいしな」
勝家は父に真面目な顔で答えた。
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