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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第102話 憂国 その2
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すが、ハイネセン市中において違法薬物の頒布が、ここ最近相次いで確認されているとのことです」
「違法薬物?」
「サイオキシン麻薬です」

 は、と声にならない声が、俺の喉を通り抜ける。特定の天然産物に依存することのない化学合成麻薬であり、原作でも強烈な快楽と引き換えに催奇性と催幻覚性が著しいと語られている。その摘発に当たっては帝国と同盟がひそかに協力したと言われる位の代物。
そしてそれは地球教の資金源であり、隷属的で狂信的な信者を産み出す為の道具でもある。他にもバーゼル退役中将のように軍隊内で密売して巨利をむさぼっている者もいる。

「……私がそれを使うと?」

 もう溜息しか出ない。確かに『宿題』の存在が俺に必要以上の重圧を与えているのは確かだが、それで麻薬のしかもサイオキシンを使うまで落ちぶれたつもりはない。実のところキルヒアイスがホフマン警視に見せられた写真がいかなるものか、転生して自己の意識確立をしても疑われない四歳だったかの頃にこっそり調べてみて、エレーナ母さんに気づかれるまで失禁したことが分からなかった位の衝撃を受けた。あれ以来、麻薬頒布する奴は殺すべしと思っているし、自分が使うなんて考えは毛頭ない。
 ただアレは無味無臭。拒絶反応が出た信者が出るまで、ポプランですら気が付かなかった。

「入ってません! 失礼ですわよ、中佐!」

 ティーカップのハンドルの上で奇妙な踊りを踊る俺の右手の指を見て、チェン秘書官は文字通り顔色を変えて怒鳴った。確かにこの半年間、腹が膨れるくらい飲んできてもテーブルを投擲するような拒絶反応も出ていないし、今更入っていたことに気が付いたとしても、もう手遅れだ。

「とにかく薬物には十分お気を付けください。売人というのはどこに潜んでいるか分かりません。優しい言葉で人の心を絡めとり、薬で人の全てを支配します」

 ここにも近親亜種が潜んでいるような気もするがな、とはもちろん口には出さない。チェン秘書官の上司は俺であり、トリューニヒトであり、中央情報局国外諜報部だ。誰が真の上司かわからないが、チェン秘書官が俺にサイオキシン麻薬の頒布状況を吹き込む理由はなんだろうか。ただ単に俺の体調や精神状態を心配しているだけとは到底思えない。
 それに原作におけるサイオキシン麻薬の一番の使い手は地球教徒だった。帝国領侵攻が失敗に終わった後、総大主教がルビンスキーに釘を刺していた時に言っていた、『両陣営に潜んでいた地球回帰の精神運動の惹起』。その尖兵が動き始めているということなのだろうか。

「法秩序委員会の見解とか捜査状況とかの話は?」
「さすがにそこまでは……」
「まぁ、そうでしょうね」

 チェン秘書官の秘書仲間も思わず口が滑ったというところか。もしこんなところから捜査情報が洩れる程度なら、
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