暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
東京サミット その1
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だがマサキ自身は、これまでの経験から男が諜報の世界に身を置く人間だと察知した。
 さしずめ、MI6の諜報員といった所か。
おそらくジェームズ・ボンドや、その類であろう。 
「俺に何の用だ」
「新聞雑誌は、どんなものを読むのかね」
 アメリカ風のスーツを着こなす男は、胸ポケットからシガレットケースを取り出す
言葉を切るとタバコに火をつけた。
「俺は岩波の世界とアサヒグラフしか読まないことにしている。
その方が女にもてるからな」
 1950年代から60年代の大学生や知識人の間では、岩波の月刊誌「世界」と朝日新聞社のアサヒグラフがもてはやされた。
左翼的な内容は元より内容の小難しさから、インテリ層の本として評価が高く、読まなくても持ち歩い ているだけで、進歩的という評価を受けた。
 現代風に言えば、自意識の高い人々が、大型のタブレット端末や英字新聞を持ち歩く姿に近いものがある。
「まあ、こいつを読んでくれ。
酷い偽情報工作の見本さ」 
 男が投げ渡したのは、題号がカタカナ表記の全国紙で、3日前の朝刊であった。
東京大手町と大阪堂島にそれぞれ本社を持つ工業系新聞社で、戦後は民族的な言動で有名な新聞だった。
 それは、東京編集局次長の署名入りの記事だった。
褐色の野獣こと、シュタージ少佐のハインツ・アクスマン。
彼が、78年の3月にベルリンでソ連兵に銃殺される前に遺書を残したという物である。
遺書の中で、中共経由で西ドイツからゼオライマーに関する機密情報を得たことを示唆する内容だった。
「ハインツ・アクスマン?ドイツ人か。
シュタージ将校の遺書など、俺に見せて、どうする」
 新聞の一面には筆記体で書かれたドイツ語の手紙と、アクスマンの顔写真が載っていた。
そして、手紙の内容を翻訳したものが、3面に記されていた。
 その内容は、アクスマン少佐は、シュタージ将校で中央偵察総局勤務である事。
中央偵察総局で、西ドイツの軍事政策の専門家という記述から始まるものだった。
 中共でのゼオライマーの活躍を知った西ドイツにいる内通者が、アクスマンに知らせた。
そして彼から、シュタージ本部にいるKGBの連絡員に密告したという記事であった。
 マサキはアクスマンという男の人相も知らなければ、彼がどういう人物かも知らなかった。
ミルケ、ヴォルフ、ゴルドコフスキ―、グロースマンという主要な人物は、認知していた。
 また、アイリスディーナに護衛役と称して付きまとっていたゾーネ少尉。
彼女と兄ユルゲンの人生を狂わせた一因となったダウム少佐の事も把握はしていた。
 だがマサキが、シュタージ本部から文書を盗み出したとき、アスクマンはその場にいなかった。
正確に言えば、瀕死の重傷で、幹部専用の第一政府病院の病室に、軟禁に近い形で隔離され
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