閑話3 きれいな戦慄 【第100話記念】
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ングのパンチ自体がブライトウェルの左後ろから伸びてきた第三者の腕によって阻止されたので、外受は空を切り、掌底はルングの左耳横をすり抜ける。
「ねぇ、ブライトウェル。戦略研究科っていうのは大人しく席について食事もできない子供(ガキ)の集まりなのかい?」
ルングの右腕をがっちりと左手で掴んでいる、ルングよりさらに一回り大きい影が、一七七センチあるブライトウェルを見下ろしている。迷彩柄の候補生服の、大きく盛り上がった胸に輝くAの徽章と『フォレスト』の刺繍。入舎式で遠目に見た『サマーガール』が、目の前で太陽のような明るい笑顔を浮かべていた。
「フォ、フォレスト四回生!」
明らかに指が右腕に食い込み始めているルングが悲鳴交じりに声を上げると、明らかにわざとらしく目を丸くしてフォレストはルングの方を見つめる。
「おやおや! 戦略研究科のお偉い方は、あたしの名前を知ってくださってるんだね。嬉しいねぇ。これは一生の誇りってもんさ」
そう言いながらもさらに握力を上げてルングの右腕を締め上げる。歯を食いしばり苦悶の表情を浮かべるルングに対し、フォレストは笑顔のまま顔をルングに近づけた。
「アンタのところの寮生が、舎(ウチ)のブライトウェルに伸されたっていうのは聞いてるよ。ご丁寧に診断書まで添付してくれたからね。でも舎生に対する注意は、舎長のアタシの仕事だよ」
「だが、そいつは武器を……」
「もしブライトウェルが武器を使ってたら骨折じゃあ済まないよ。たぶん、一生歩けなくなるね」
「……そんなわけ」
「なんなら証明してやってもいいさ。簡単だよ」
グイと左腕を伸ばして腕から手を離すと、ルングは食堂の床に音を立てて腰から転げ落ちる。あまりにも大きな音と大女の立ち居振る舞いに、食堂中の視線が二人に集中した。
「陸戦技術科から訓練用の装甲戦闘服とトマホークと『ステージ』を今日の課業後に貸し出してあげるから、第二学生寮に居る『戦略研究科の』腕扱きを用意しな。四回生だろうと五回生だろうと戦略研究科なら誰でも構わないよ」
「な……」
「もちろん相手するのはブライトウェル一人さ。どうだい?」
その言葉にルングの視線がフォレストとブライトウェルの間を数度往復したあと、周囲から浴びせられる興味深い視線に気が付き、慌てて立ち上がって「了解しました」とフォレストに敬礼してから、食堂から大股歩きで出て行った。その後ろ姿を鼻で笑いながら見ていたフォレストは、事態の急変と顛末に頭を抱えるブライトウェルの肩に手を廻した。
「分かっているだろうけど、負けたら半年、薔薇舎のトイレ掃除やらせるからね。自信のほどは?」
それが冗談ではないことは、右肩に食い込むフォレストの右手の握力でブライトウェルは理解した。恐らくは送られてきた同期生共の診断書か
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