閑話3 きれいな戦慄 【第100話記念】
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候補生の欠席理由は既に教官内で共有されているので、報告は不要である」
起立・敬礼の後、班長が欠席者の報告をしようとしたのを、講師は制して先に口を開いた。
「事故は想像してもないところでも起こりうる。諸君らも十分気を付けて学生生活を全うしてもらいたい。特にジェイニー=ブライトウェル=リンチ候補生」
さして広くもない講義室で唯一の女性であるブライトウェルに視線を向けて講師は告げる。三人の欠席理由を理解しての名指しであることは誰の目にも明らか。声には出さないが、講師が敢えて既に離婚して籍から外れているブライトウェルの父親の名前を口に出したことに、数人が含み笑いを浮かべている。
それでもブライトウェルは自分の選んだ道が間違っているとは思えなかった。私は間違っているが世間はもっと間違っているなんて言うつもりもない。人は自分が正しいと思うことを言うのは当たり前のことだ。だからこそ、校舎の裏側に呼び出して『格闘戦の基礎訓練』と抜かした同期生共を無力化したこと自体に間違いはないと思っているし、それでこうやってあてこすられるのは癪に障る。
講師の態度はすぐに生徒に伝播する。講義で指名されることはほぼない。戦略研究科の上級生の中にはブライトウェルが女というだけで無視をする者もいる。それがさらに同期生達の心を駆り立てる。コイツはバカにしてもいい奴だ、イジメてもいい奴だと。
それに乗って暴行しようとした奴らを早速病院送りにしてやったブライトウェルとしては、自分が第四四高速機動集団や第五艦隊でどれだけ守られていたのか身に染みて理解できたし、どれだけ出来た人たちに囲まれていたのか、人運が良かったのか、痛感せざるを得なかった。
二限が終わり昼食になっても、ブライトウェルは孤独だった。戦略研究科の同期生の誰もが昼食に誘おうとしない。ブライトウェルにとって士官学校構内唯一の安らぎは同室戦友や薔薇舎の同期生と会えるこの時間なのだが、今日に限っては講義の遅れか何かで、待ち合わせの時間に来ない。代わりに、食堂の中央よりやや端っこ一回生のスペースでありながら交流スペースに極めて近い場所に座っていたブライトウェルに会いに来たのは、顔も知らない上級生だった。
「ジェイニー=ブライトウェル=リンチ一回生だな?」
襟についている学年章は三回生。胸に書かれている名前はルング。背の高さは一八〇センチ位。赤黒い顔に筋骨隆々の身体。だがブライトウェルにとっては恩師の一人であるジャワフ少佐よりも『半』まわりは小さい。顔見知りではないが、こちらを名指しで問うている以上、食事の手を止め、起立敬礼するのは規則だ。
「はい。左様です。ルング三回生殿」
「ルピヤ=パトリック=ルングだ。第二学生舎の総務をしている」
そう言うと、ルングはブライトウェルが座
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