閑話3 きれいな戦慄 【第100話記念】
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通っていないことはしていないと貴様は言えるか?」
化粧が一切されていないはずなのに瑞々しい桃色を浮かべる口から出た言葉に、ブライトウェルは背筋に高圧電流が流れたような痺れを感じた。それは一年と半年前。第四四高速機動集団司令部のキッチンで、先輩の従兄上にかけられた言葉以来か。
「言えます」
人生が五四〇度変わったあの日以降。自分が生きる道を守ってくれた大恩ある老提督と、節を曲げずに生きるための術を教えてくれた英雄将軍と、自分がこれからも生きる意味自体を作ってくれた大切な人。他にも多くの心よき人たちの助力があってこそ、自分は天地の間に存在しても良いことをブライトウェルは『知った』。
時に方便をつかなければならいことが将来あるにしろ、先の三人の名を汚すような真似はしない。それはブライトウェルにとって唯一といっていい人生の誓いだ。
「誓って、言えます」
「……いいだろう。だが詳細について舎長には貴様の口から説明してもらうぞ。夕食後に、じっくりな」
そう言うとアントニナ先輩は右手人差し指でブライトウェルの額を小突いた。児戯のような仕草だが、想像以上の力の入れ具合で、ブライトウェルの顎は思わず上を向く。だがそうでなくともブライトウェルは天を仰ぎたくなった。舎長への説明と舎長からの訓示は、肉体言語による会話になることが容易に推測できるが故に。
……ちなみに現在の薔薇舎舎長の名前はマリー=フォレストと言い、通称は『サマーガール』。身長一八八センチ、体重八五キロ。長い歴史を持つ薔薇舎でも史上唯一の『陸戦技術科候補生』であり、自他ともに認める本物のメスゴリラだった。
◆
舎則で許される最大速度での速歩で薔薇舎敷地を抜け、人目のある公道ではゆっくりと、士官学校本敷地内は駆け足で走り抜け、ブライトウェルが一時限の講義室に入ったのは、一限講義一分前だった。
遅刻ではないが、講義室の扉を開ければほぼ全員が着席していた。エリート揃いの戦略研究科だけあって、行動にすらプライドがある人間も多い。一番遅れて入室してきたブライトウェルに対して、軽蔑の視線すら送ってくる者すらいる。
こんな人間達の中で五年も暮らして来て、しかも最終学年で首席を獲っておきながら、どうしてあれほどまでに優しくてくだけた人が出来たんだろうと、ブライトウェルは入学以来不思議に思っていた。特に現在空席となっている三つの席に座っていたはずの同期生共の顔を思い出せば、ほとんど奇跡なのではないかと思えてくる。
そしてその想いが最高潮に達したのは、開始時間ピッタリに講義室に入ってきた講師の、いつ見ても不愉快そうな顔がいつにも増して不愉快そうだったからだった。
「班長候補生。イーモン=エイミス候補生、リュック=ブレーズ候補生、アナトル=カヴェ
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