閑話3 きれいな戦慄 【第100話記念】
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それだけ言うとさっさと講義に移ってしまう。ブライトウェルに対する意図的な無視であることには違いない。だが都合三六名の候補生が返り討ちで欠席に追いこまれたという不都合で不愉快な現実に加え、陸戦技術科の教官群から何らかの『釘』が刺されたことはおそらく事実だろう。ブライトウェルとしては、日常から当て擦りがなくなっただけでも十分だった。
むしろブライトウェルにとって不都合になったのは、唯一心休まる昼食の時間だった。
「ジェイニー王女殿下(プリンセス・ジェイニー)、昨日のエリミネーションマッチは実にお見事でした。陸上戦技研究会はプリンセス用にロッカーもトマホークも用意していますよ」
「プリンセス。今度、女子器械体操部に見学参加していただけない? まだ部活を決めていないのでしょう? あの見事な体幹を生かすのは、器械体操をおいて他にないわ!」
「エリミネーションマッチを勝ち抜いた、女子として並外れたスタミナは陸上競技こそ生きるよ、プリンセス。是非とも陸上部に入部してほしい」
「……モテモテじゃない。ぷりんせす・じぇいにー」
「……アントニナ先輩が、女子運動部に一斉号令をかけたからじゃないですか」
『クレオパトラ』の保護下にあるということで、てっきりフライングボール部に入るものと思っていた運動部の幹部面々が、あのエリミネーションマッチを見て、「何としても即戦力が欲しい」と強烈な勧誘攻勢をブライトウェルに仕掛け始めたのだ。時限の間の僅かな休みも遠慮なくかけてくる攻勢に、ブライトウェルは食堂で逃げ回るように動いて、ようやくアントニナの下に辿り着き食事を取ることができた。
「今まで部活を決めていなかったアンタが悪い。大人しくどこかの部活を選べばいいじゃない。アンタならどの運動部に入っても、それなりのモノにはなるし」
「フライングボール部に入れとは仰られないんですか?」
「アンタ経験ないでしょ? いくら運動神経が良くても空間識がないと入ってから苦労するし、チームプレーができるようになるまでにまず一年はかかるわ。そんなの時間が勿体ないじゃない」
「……そんな合理的な理由があったんですね」
「……アンタ、前から思っていたけど、アタシのこと微妙にバカにしてない?」
「とんでもない。アントニナ先輩には感謝してもしきれません」
実際アントニナとフレデリカ以外、士官学校でブライトウェルには心を許せる味方はいない。正直言えば、フレデリカすら本心を許せる相手かと言えば、彼女の父親の立場を考えると一〇〇パーセントとは言い切れない。
自分があの父の娘と知りながらも、自らの信念に従って周囲の敵意をものともせずに庇い続けるあの人が、絶対的な信頼を寄せている従妹であるアントニナの存在は、ブライトウェルにとってみれば何物にも代えられない宝物だ。
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