閑話3 きれいな戦慄 【第100話記念】
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言うフォレストの顔は満面の笑みであったが、丸いゴリラのような眼だけは笑っていなかった。
◆
翌日。
ブライトウェルがしっかりと第一時限の開始五分前に講義室の扉を開けて入った時、室内にいた候補生全員の視線が集中砲火となって浴びせられた。そのいずれもが恐怖と敬遠のモノであることは、ブライトウェルにはわかっていたが、そんなことで優越感に浸るつもりは全くない。
薔薇舎の規則通り、顔が映るくらいまで磨き上げられた革靴の立てる規則正しい響きだけが、部屋の中にこだまする。指定された席に腰を下ろすと、再びざわめきが息を吹き返す。そのいずれもが自分に棘を向けているようにブライトウェルには思えたが、ただ一つ。自分の隣から浴びせられる視線には敵意を感じなかったので顔を傾けると、いつも見る幼顔の候補生が緊張した面持ちでこちらを見ていた。
「なにか御用ですか? ベニート=ブレツェリ候補生」
「ぶ、ブライトウェル候補生。あ、そ、その……」
緊張と恐怖を混合して顔に張り付けたブレツェリは、目を一度きつく閉じて数秒経ってから、口を開いた。
「昨日の課業後のことなんだけどさ、もしかしてあの場所にこの分隊の班長も、いた?」
「……あぁ、そういえばいました、ね」
たしか二八番目か二九番目に現れて、こちらが構えるともうトマホークを持つ両手が震えていたのがわかったので、手早く右小手で叩き落としてから右回し蹴りで左膝を折り、そのまま半身回転しながら背後に回り込んで背中のど真ん中に一撃を打ち込んだのがそうだったとブライトウェルは思いだした。一応自足歩行は出来ていたから、それほど重傷ではないはずだ。
「それがどうかしましたか?」
「あ、ごめん。僕は第六学生寮なんで詳細は聞いていないんだけど、一応この分隊では次席なんで…… 彼が欠席なら僕が号令をかけなくちゃいけなくてね」
「……それは、それは、ご愁傷様です」
ここにも残念な犠牲者がいたか、と、とびきりの笑顔でブレツェリに応えると、ブレツェリの顔から緊張が消え恐怖一色に染められた。
「どうかしました?」
「あ、そ、そう、そうなんだ……」
深く肩を落とすブレツェリの肩に手を伸ばそうとした時、講義開始時間のベルが鳴り響き、いつものように講師が時間ピッタリに講義室に入ってきた。
「起立・敬礼!」
一瞬で感情の切り替えを済ませたブレツェリが殆ど自動機械のように立ち上がると、講義室全体が緊張に包まれる。無言で答礼する講師の顔は、昨日の三倍増しどころではないくらいに苦々しいものだった。
「次席候補生。現在欠席してる八名の事故報告は不要である。昨日も話したが事故は想像してもないところでも起こりうる。諸君らも十分気を付けて学生生活を全うしてもらいたい。以上」
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