閑話3 きれいな戦慄 【第100話記念】
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る」
「なんでありましょうか。ボロディン二回生殿」
「先日、戦略研究科内で『候補生同士の喧嘩』があったと、舎長に連絡があった。身に覚えはあるか?」
「ありません」
ブライトウェルは自分を見上げる上級生を『見下ろして』応えた。その澱みない即答に、上級生のきれいに整った細い眉の間に深い皺が寄った。
情報分析科二回生、アントニナ=ボロディン。学籍番号八九I〇九八九AB。通称『クレオパトラ』。
金髪碧眼に褐色肌という特異な容姿の持ち主というだけでなく、士官学校フライングボール部(男子)のエースアタッカーという抜群の運動神経の持ち主でもある。だが通称の基になったのは、そのすらっとした鼻梁にやや大きめの瞳という、美女と謳われた古代女王に等しいと言われる美貌からだけではない。
士官学校の数多にある学生舎の中でも極めつけに厳しい気風を保持する薔薇舎にあって二回生の総班長を務めながらも、道理の通らないことに対しては礼儀正しく規則に則りつつ上級生に噛みついていくという正義感の持ち主故に、上級生やOG達から「間違いなく四回生の時には舎長になれる器だが、古き伝統もまた彼女によって廃されるだろう」と嘆かせた器量からだ。
そして軍属から候補生になったブライトウェルにとっては、時として同い年の姉のようでもあり義妹でもあるような人だった。
「……私に嘘をついても、なんの意味もないぞ」
「『嘘は』ついておりません」
「では貴様を名指しで送り届けられてきた診察書類の束と、所属寮長名義の抗議文は一体なんだ?」
「小官にはわかりかねます」
そんな彼女が金糸のような髪を逆なでながら、ブライトウェルを睨みつけている。その横を慣れない規則と罵声で圧し潰されつつある一回生達は怯えつつ、二回生以上の上級生達は生暖かい眼差しで、課業行進していく。
「重傷者一名、軽傷者二名。重傷者は左膝関節内骨折。軽傷者も打身に捻挫に各所打撲だと」
「そうですか」
なんだ大したことなかったなと、ブライトウェルはいろいろな意味で思ったが、目の前の先輩の額には青筋が浮いているのを見て、それ以上の口答えは無用と判断し、心持ち殊勝なふりをした。
「そんな心にもない謝罪の表情をしても無駄だぞ」
だが当のアントニナはそんなことはオミトオシ。さらに一歩、ブライトウェルに近づくと、丁度ブライトウェルの鼻の端あたりにアントニナの長いまつげが届きそうになる。夏空を思わせる突き抜けるような力強さを含んだ碧色の瞳は、女のブライトウェルですら美しいと思わずにはいられない。その瞳がじっと自分の瞳を見つめている。僅かな時間であったはずなのに一時間にも二時間にも感じられる圧力が、その瞳にはある。
「ビュコック中将閣下とディディエ中将閣下と私の兄に誓って、筋の
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