八十三 シカマルVSペイン天道
[2/12]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
だが二日間、誰も助けようとしなかった事実が余計苛立ちを募らせる。
けれどその怒りの矛先を向けるべきは落とし穴をつくった相手であって、目の前の被害者ではない。
怒りを抑えて、俺は口を開いた。
「お前、こんなとこでなにしてんだ?」
声をかけた途端、ビクリと身を縮こませる。
弾かれるように立ち上がったそいつは、穴を覗き込む俺のほうを見上げる。
髪の合間から覗くビー玉のようにきらきら光る蒼い瞳が俺の視線とぶつかった。
その瞳の輝きに息を呑む。
ハッ、と我に返って、穴の隅で再び縮こまるそいつに手を伸ばした。
ビクリと反射的に身体を強張らせる動作から、殴られるとでも思ったのだろうか。
それが日常茶飯事だと?
無性に苛立ちを募らせる。
狐狩りをしようと誘った奴らにも落とし穴を作った相手にも、そして手を伸ばす行為が殴打だと認識させた周りにも。
とにかくもなんとかして、落とし穴から助けてやりたい。
多少強引にでも穴から引っ張り上げる。
けれど小柄とは言え、同じ六歳くらいの子どもを引っ張り上げるのは、同じ子どもである自分にとっても至難の業だ。
全身全霊を使って引っ張り上げ、ようやく穴から救助できたが、勢い余って自分の身体の上にその子が乗りかかった。
軽い。軽すぎる。小柄で細すぎるその身体は同い年とは思えない。
地面に転がって倒れた自分の身体の上にのしかかっているのに、そう重さを感じなかった。
「…おい、大丈夫か?」
地面に転がった自分の上に乗っているその子に声をかける。おそるおそる顔を上げた子どもの顔が徐々に明らかになる。
初めて見たその顔を見て、俺は思わず息を呑んだ。
(うわ……ッ)
ふわふわ輝く金糸に、青空を思わせる透き通った碧眼。白い肌。
動物の髭のような痕が両頬にあるが、それすら愛嬌に思えるくらい整った容姿。
落とし穴に落ちたせいで泥だらけだが、周りの風景も景色もなにもかもが色褪せて見えた。
泥だらけで三日間も落とし穴の中にいたのに、何故か汚いなんて思えない。
むしろ──。
心臓が波打つ。なんともいえない感情が、俺を襲った。
動きが止まったまま凝視する俺を、不審がったそいつは上目づかいで見つめている。
途端、我に返って弾かれたように俺の身体から飛びのいた。
寸前まで感じた相手の体温を少しばかり惜しいと思いながら苦笑する。
案の定、脱兎のごとく逃げようとしたそいつを、俺は最近やっと覚えた術で捕まえた。
身動きが取れなくなったその子どもは、ますます脅えだす。
「べつになにもしねーよ、メンドクセエ」
とにかく宥めようと、俺は両手を挙げて降参のポーズをとる。俺と同じように動作をした子どもが、おそるおそるこちらを見た。
怖がらせる
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ