第99話 格の違い
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れは俺ではなく憲兵隊に直接すべきだろう。
「中佐がなにか?」
「前任の上官ではありますが、どうやら引継ぎにつきまして誤解があるように思えましたので、お伺いに上がりました」
「はぁ?」
思わず俺の口があんぐりと開く。確かにピラート中佐の引継ぎはとうてい引継ぎとは言えない代物だった。だがそれは文章として残すにはあまりにも危険な代物であり、補佐官の臨機応変で柔軟な対応が必要な職務であるからだ。単語として羅列すれば僅かなものだが、その内容はあまりに深く複雑で、現時点の俺だって全てを把握しきれてはいない。
そして補佐官補であるエベンスが、ピラート中佐の仕事ぶりに不満があったのは、あからさまな軽蔑の態度でよくわかる。中佐は一見すればゴルフに接待にと腐敗した軍士官のテンプレのような人物だが、実際は後方支援の現状からの戦略的な視野と深い知識を持つエキスパートだ。中佐自身のひねくれた性格もあるだろうが、自身の常識に捕らわれて相手を一方的に理解しようとしなかったのは、エベンス達も同じではないのか。もちろん俺を含めての話ではあるのだが……
「……誤解と言うのは聞き捨てならない」
腹の底で時がたつごとに沸々と湧き上がってくる怒りに蓋をして、俺は両肘を机上に置き、両手を組み、その手で口元を隠しながらエベンスを上目遣いで努めて冷静に、感情を込めず睨みつける。
「確かに私はまだこの職について日も浅く、ピラート中佐のように手際よく振舞うことは出来ない。だが私なりに職務に精励し、貴官らの補助もあって少なくとも業務に支障をきたした覚えはない」
「……」
「貴官が引継ぎに誤解があるというのであればどういう点か。明確に、かつ簡潔に、説明してもらいたい」
聞く耳は持つから上官の行動に不満があるのならば、いちいち前任者の名前を上げることなく言ってみろ、俺がそう言ったのが分かっただろうか。右も左も分からぬ年下の上官に、正義の説教をブチかまそうと思っていたのかもしれないが、一応俺の仕事ぶりはホワン=ルイからトリューニヒトまでそれなりに評価してくれている。
「……軍人は政治家といたずらに接触すべきではありません。彼らの、権力を私物化するような政治家の代弁者となるような真似は慎むべきです」
「私の任務は政治家の代弁者ではない。行政活動において軍事的知識を必要とする政治家のフォローを行っているに過ぎない」
「ゴルフや会食に行かれることも、行政活動におけるフォロー活動と仰るのか」
「当然だ。性格も分からない見ず知らずの相手と、いきなりチームを組んでいい仕事ができるわけがない」
「我々軍人はそれが可能ですぞ」
「厳格な行動規範があって命令と服従によって成立する軍務と、対等な相手と交渉し物事を一から作り上げていく政治とを同一に考えるべきではない」
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