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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第99話 格の違い
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ディン中佐。もしお時間がよろしければ、エベンス少佐が中佐にお目通りを願っているのですが」

 新しいカモミールティーの匂いを纏わせながら、サイドの黒髪が俺の頬に掛かりそうなくらい顔を近づけて、チェン秘書官は囁く。その態度や話し方以上に、言っている内容も異常だ。直下の部下がわざわざ秘書官を通じて面会を求めてくるとは。

「ピラート中佐は、在勤中部下との面会はわざわざ秘書官を通じて行え、と命じていたのですか?」

 普通なら隣接する補佐官補のオフィスから直接補佐官にヴィジホンをかけてアポ確認するだけだし、特に忙しくないと言われるこの時期で来客なしの在室確認できるのであればノック三回で済む話のはずだ。
 だが俺の不審な視線を浴びたはずのチェン秘書官は、妖艶な笑みだけを浮かべるだけで何も言わず、肯定も否定もしない。前任者の不利になるようなことは言わないということなのか。それとも『別の意味』か。

「……他に本日の面会者はいないのであればお通ししてください」
「かしこまりました」

 軍人ではなく軍属民間人なので、敬礼ではなくお辞儀で。履歴書では三二歳の、深い谷間の闇が『答え』でないことを祈りたい。その彼女が秘書席のヴィジホンで呼び出して正確に六〇秒後。皺ひとつない制服に身を包んだダドリー=エベンス少佐が、渋い顔を浮かべつつもピシッとした直立不動の姿勢で、俺の前に立っていた。

「お時間いただきありがとうございます。ボロディン中佐。ダドリー=エベンス。参上いたしました」

 一応職務・階級で立場が上の俺は、自分の執務席(ピラート中佐の使っていたの物とは別の、軍汎用品)から立ち上がることなくエベンスに敬礼したのだが、それが気に食わなかったのか敬礼前と後で眉間の皺の数が違っている。年下の上司はそんなに嫌かと、上官反抗罪を振りかざしてやっても良かったが、そんなことで目くじらを立てるようではナメられる以前に上司としての器量が疑われる。

「お話があると秘書官から聞きました。ですがまずその前に、これからは直接アポイントを私に取ってくれて構いません。私は本部長でも長官でもないのに、少佐もいちいち面倒でしょう?」

 話の分かる上司風に応えたつもりだが、エベンスの表情に軟化する様子は全くない。一度だけエベンスの瞳がチェン秘書官に向けて動いたが、顔はこちらを向いたままだ。そんな見え透いた懐柔など不要だとでも言いたいのか。承知しました、と小さく頭を下げるだけ留めている。

「それでお話とは?」
「はっ。ピラート中佐についてであります」
「ピラート中佐の?」
 エベンスの口から出た意外な人物の名前に、俺は首を傾げざるを得ない。確かにエベンスにとって前の上官であっただろうが、今は俺が上官だ。もし前任者をなんらかしらの罪で告発するとしても、そ
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