第99話 格の違い
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そんなことも分からないのか、とまでは言うつもりはない。エベンスのこれまでのキャリアを否定するつもりはないし、腐敗した政治家に対する純粋な憤りも分かる。正義漢なのだろうが、あまりに視野が狭い。
「我が国は市民に選ばれた政治家と、優秀な官僚によって政府が作られ、国家として運営されている。手続きは煩雑だし非効率かもしれないが、それは民主主義国家として支払うべきコストだ」
「そんなことではいつまで経っても、帝国を打倒することにはかないませんぞ」
「帝国が我々を自主独立した民主主義国家として、存在を承認し存続を認めるなら、別に倒す必要はない」
俺の返事にエベンスの瞳が一度大きく開き、次いで明らかに上官反逆罪に問われてもおかしくないような嘲笑面で俺を見下ろしてくる。
「どうやらボロディン中佐は平和主義者のようですな」
腰抜けめ、とほとんど言っているような舌鋒。挑発のつもりにしては度が過ぎているし、怒ってぶん殴ってもいいが拳が痛くなるだけで何の意味もない。確かにこれが救国軍事会議の主参謀であるなら、トリューニヒトは怖くもなんともなかっただろう。まるで役者が違う。
だからこそ、あまりやりたくはなかったが、コイツにはやるしかないと思った。俺はエベンスの履歴書を頭の中で見直すと、その嘲笑を鼻で笑ってやった。
「平和主義者の何がおかしいのか、私にはさっぱりわからないね。やはり戦場を遠く長く離れると、血の匂いも命の価値も建国の理念も、みんな忘れてしまうものなのかな」
前線から帰ってきたばかりの俺にその手の挑発は悪手だったなと、無言で執務室を出て行くエベンスを視線だけで見送りながら思うのだった。
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