第一章
[2]次話
太っても平気
市役所で働いている高橋双樹の体重は百キロを超えている、一七五の背で丸々とした体で赤がかった髪の毛を真ん中で分けてセットしている。顔立ちはきりっとしていて眉は太く男らしい。整った顔立ちであると言える。
だが姉で主婦の那智葵、一六〇位の背で面長で優しい顔立ちで胸があり黒髪を首の付け根の高さで切り揃えている彼女はいつも言っていた。
「太り過ぎはね」
「身体に悪いよな」
「わかってるじゃない」
「いや、いいじゃない」
双樹は姉に明るく笑って言った。
「太っていても」
「あんたはそう言うけれど」
「太り過ぎじゃなかったらさ」
「それはそうだけれど」
「心配いらないって、姉ちゃんは心配性なんだよ」
「体形のこと言われるでしょ」
姉は弟にこちらの話もした。
「そうでしょ」
「ずっと言われてるよ」
弟は姉に素っ気ない調子で答えた。
「子供の頃からさ」
「あんた子供の頃から太ってたし」
「けれど運動神経よくてさ」
所謂動ける肥満であるのだ。
「それで勉強もそれなりだし」
「だから言われてもだったのね」
「太ってるなんて個性だろ」
それに過ぎないというのだ。
「だからさ」
「いいのね」
「これでも健康には気を付けてるし」
肥満したその身体で言うのだった。
「だからさ」
「心配はいらないのね」
「ああ、歩く様にして水泳だってやってるし」
運動もしているからだというのだ。
「健康診断も受けてるし」
「心配無用なの」
「そうそう、別にさ」
実家に来た姉に満面の笑顔でコーラとポテトチップスを楽しみつつ話した、飲んで食べる量も結構なものだ。
葵はその量を見ても心配だった、だが。
双樹は健康診断でも問題なかった、毎年人間ドッグにも通っていたが。
ふとだ、そこでだった。
小学校の時の同級生に会った、ずっと自分を太っていると馬鹿にしてきていた佐野智子という小柄で色白で垂れ目の女性だった、子供の頃は痩せていたが。
今は肥満しきっている、その彼女とばったり会ったが。
「あれっ、佐野さん?」
「えっ、高橋」
彼女は双樹を見るとぎょっとした顔になってこう言った。
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