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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第98話 人と人
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には、『傲慢』が感じられないと?」
「君は文官側に対し、武力をちらつかせるようなことを一切しない。どんな相手でも丁寧に理詰めで話してくるところなんか、まるで『官僚そのもの』で実に話しやすい。今日だって中将に、少将二人に、佐官が山ほど……どれだけの威圧を私達文官が感じていたことか。軍人の君にはなかなかわかりづらいとは思うがね」

 どこの国のいつの時代も、軍と官の仲は悪い。特に戦時下や戦雲漂う時代において、軍人の存在感と発言力は強大だ。前線で命を張っている立場の人間に対して、羞恥心のある銃後の人間はどうしたって気後れしてしまう。
 リン=パオ、ユースフ=トパロウルが戦った“古き良き時代”より一五〇年。戦争が常態化し、国民の生命に対する価値観を低下させ、思考を硬直化させ、国家として歪であることを容認してしまっている。

「ホワン=ルイ先生。人的資源に関する専門知識を有する政治家としてお伺いしたいのですが、よろしいですか?」
「なにかね? 応えられる質問だったら良いんだけどね」

 これは賭けだ。同盟滅亡まで権力中枢の近くにありながらも一歩引いた立場に居続けた、ホワン=ルイという一人の政治家に問うても答えてはもらえないかもしれない。だがヤンの査問会にも参加できるような、ある意味では『融通の利く』政治家と腹を割って話せる機会は、これから先、そうないだろう。

「これから数年毎に一〇〇万人以上の将兵を喪失するのと、毎年国家財政における軍事予算が七割を超えるのと、どちらかを選択しなければならないとしたら、どちらを選択されます?」

 俺の質問にホワン=ルイは一瞬だが体が硬直したように震えた後、まじまじと俺の顔を見つめる。一〇秒か二〇秒か。それほど長い間ではなかったが、空気が重くなったのは間違いない。だがホワン=ルイは一度目を閉じ、下唇を軽く噛みながら小さく頷くと、先に口を開いた。

「究極の選択だね。政権側にいる政治家としては実に即答しがたい」
「理解しています。大変無礼な質問であることも」

 俺が回答を世間に言いふらすような人間でないという保証はどこにもない。俺にそうするつもりは毛頭ないが、トリューニヒトに密告すると警戒するのも当然だろう。だが覚悟が決まったというよりは諦めたといった表情で、ホワン=ルイは肩を竦めておどけるような表情を見せる。
「まぁ……いろいろな人の君の評判を聞くに、君は後者の意見を選択するのだろうね。レベロが聞いたら君を狂人と評するのは間違いない。他人事ながら保証してもいいくらいさ」
「そうなんですか?」
 まだ直接レベロ本人に会ったことはないが、やはり歯に衣を着せぬような舌鋒の持ち主らしい。まぁ、俺の質問もかなり失礼なものだから、お互いさまというところか。
「だけど私個人としても人的資源委員としても君
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