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冥王来訪
第三部 1979年
姿なき陰謀
隠然たる力 その4
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型兵器の市街地での実験が出来なくなる……
そのことを恐れた、トルーマン大統領が決めたという説。
 あるいは戦後を見据えて、東欧を支配下に置きつつあるソ連を牽制するために、ベルリンに原爆投下したという説が一般的であった。
 いずれにせよ、ドイツは核爆弾4発の為に、政府機能が消滅。
終戦間際で、第三帝国が崩壊し、なし崩し的に占領軍の直接統治を受け入れることになったのだ。 
 政府のない国の国民の末路は、最悪だった。
勝者たる連合軍のほしいままにされ、あらゆる恥辱を受け入れざるを得なかった。
これ以上の事は、今回の趣旨から外れるので、別な機会を設けて話をしたいと思う。


 場面は変わって、西ドイツの臨時首都・ボン。
ユルゲン・ベルンハルトと接触した西ドイツの女スパイは、ぼんやりと空を眺めていた。
 ボン市内にあるカフェテリアで、アリョーシャ・ユングは、思い悩んでいた。
それは、ドイツ国家の将来ではない。
 ふと、ユングの脳裏に浮かぶのは、一瞬の出来事。
忘れようとしても、勝手に思い浮かんでくる。
 彼女は、白皙の美貌をたたえた好青年に、魅了されていた。 
何をやっても集中できず、思い浮かぶのは、例の美丈夫の事ばかり。
 今の自分は、情報部員としての職責を果たしていない。
こんなことではいけないと思いながら、ぼんやりとしてしまう。
 ユルゲン・ベルンハルト大尉か……
 ユングはユルゲンの顔を思い浮かべながら、ふとため息をついた。
それは官能と情熱のため息であった。
 ユングは、今まで世の男たちに、雰囲気があるなどと思ったことはない。
西ドイツ官界の若い官僚たちの中には、美顔で仕事のできる人間は大勢いた。
 仕事がら参加した政財界のパーティーの中にも、素敵だなと思える人物はいた。
しかし誰一人として、ユルゲンの持っているような雰囲気の人物は、いなかった。
 ベルンハルト大尉は、確かにハンサムだけど、それだけじゃない。
なにか、特別なものを、あの青年将校はを持っている。
 ユングは(かぶり)を振って、窓から見える空を見上げた。
なぜ、こんなにユルゲンの事を思い、ため息などをついたのだろう……
 やはりおかしい。
だけど、それだけでは割り切れない感情が、自分を支配している。
 どんな理由があるにしろ、積極工作の対象者に諜報員が惚れこんでいい理由があるわけがない。
そこでまた、胸の内側にもやもやとした感情が広がっていく。
 本当にそれでいいのだろうか。
たとえば、二人が軍人と諜報部員という立場を超えて、惹かれ合ったのならば……
 ユングは混乱していた。
これは、運命的な出会いかもしれない。
 胸をかきむしられるような痛みだった。
彼女は、その痛みさえもどこから来るものか、理解できなかった。

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