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渦巻く滄海 紅き空 【上】
四十二 接触
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は見えなくなったけれど、逆に今まで見えなかったものが見えてきたよ」
ヒアシは顔を上げた。未だ天井へ視線を向けているものだと思い込んでいたヒザシがこちらをじっと見ていた。
「宗家とか分家とか関係ない。家族が…私の兄弟が見えるよ。恨むわけない」

目が合う。
微笑んでいる弟をまじまじと見つめてから、兄は笑い返した。
「そうだな…」
窓の外で鳥が祝福の歌を捧げている。実に十年ぶりの、兄弟らしい会話だった。









「ナルちゃんっ!」
次試合の為に対戦場から追い遣られたナルは待機場へ向かおうとしていた。突然誰かに抱きつかれ、踏鞴を踏む。危うげにも受け止めたナルに、彼女は息急き切って賞讃の言葉を送った。

「お、おめでとう…っ!すごいよ、本当にすごいよ!ナルちゃん…っ」
「く、苦しいってばよ。ヒナタ」
「あ、ご、ごめんね…!だ、大丈夫?」
勢い余って思い切り抱き付いたヒナタがナルから慌てて離れる。謝るヒナタに、ナルは照れながら「見てくれたってば?」と訊ねた。
「オレってばネジに勝ったんだってばよ!」
「う、うん…っ!見たよ!…ちゃんと見たよ…っ!」
二人で手に手を取り合ってぴょんぴょん跳ねる。観戦席に繋がる階段途中で談笑するナルとヒナタの頭上に声が降ってきた。

「こ〜ら。話すんなら階段上がり切ってからにしろよ。めんどくせ―」
億劫げに手をポケットに手を突っ込み、階段を下りて来るシカマル。彼を見上げたナルは、不思議そうに目をぱちぱち瞬かせた。
「あれ?シカマル、次の試合だっけ?」
「本当は次の次だったんだけどな。カンクロウって奴が棄権してシノの不戦勝」
うらやましいぜ、と肩を竦めてみせてから彼はにやりと口角を吊り上げた。
「それよか、あのネジに勝つとはすげーな。おめでとさん」
一瞬何を言われたのかわからずきょとんとする。直後「…!おうっ!」と勇ましく答えたナルはヒナタに顔を向けた。
「へへ…。約束したもんな!ヒナタにネジぶっとばすとこ見せるって」
「う、うん…。ナルちゃん、わ、私ね…ネジ兄さんともう一度、は、話し合ってみる…」
ヒナタの一大決心に、ナルは「今のアイツだったら、きっとヒナタの声が届くってばよ」と励ました。
「ヒナタの父ちゃんもハナビちゃんも、いつかヒナタの事認めてくれるってば」
「そ、そうかな…」
「そうだってばよ!」


激励するナルと、戸惑いつつも嬉しそうにするヒナタ。彼女達を微笑ましげに眺めていたシカマルが不意に顔を険しくさせた。二人の間に割り込む。
「ど、どうしたの?」
「しっ!」
うろたえるヒナタに目配せし、ナルの口を手で押さえる。もごもご言うナルの耳にも誰かの足音が入ってきた。

「ん?」
「あ、あんたは……」







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