第一章
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仁愛
樋口季一郎少将はこの時ハルビン陸軍特務機関長の役職にあった、それで世界情勢についての情報を収集しかなり知っていたが。
ナチス=ドイツの政策を聞いて安江仙弘に曇った顔で言っていた。
「我が国の政策とはな」
「相容れぬところがありますね」
「ユダヤ人についてな、彼等を敵視してだ」
そうしてというのだ。
「排撃することはな」
「我が国の政策とは全く違っていて」
「認められない、今もだ」
「オトポールの駅にですね」
「大勢のユダヤ人が来ている」
「彼等をどうするか」
「三月といってもこの満州は寒い」
このこともだ、樋口は言った。
「下手をしなくても油断すればだ」
「凍え死んでしまいます」
「そうだ、そしてだ」
樋口はさらに言った。
「今あの駅に多くのユダヤ人が留まっているが」
「凍え死んでいる人が出ていますね」
「彼等はアメリカへの亡命を望んでいるが」
「どうなるかわからないです」
「その間ずっとだ」
「あの駅に留まることになりますね」
「凍え死ぬ様な場所にな」
「既に凍死者が出ています」
安江はこのことを深刻な顔で話した。
「もうです」
「一刻の猶予もならないな」
「彼等の命を考えれば」
「放っておけない」
樋口は言った。
「すぐに彼等を上海に送ろう」
「そしてそこで保護をして」
「そうしてだ」
そのうえでというのだ。
「ことが決まるまでの間だ」
「上海に留まってもらいますね」
「日本が保護してな」
「それでは」
「河村少佐とも話す」
部下である憲兵隊特攻課長河村愛三少佐ともというのだ。
「そしてだ」
「上海にまで送りますね」
「あのままだと凍死者がさらに増える」
そうなるからだというのだ。
「放っておけない」
「それでは」
「すぐに動く」
「同盟国のドイツのことは」
「ドイツはドイツだ」
安江が敢えて言ったその言葉にだ、樋口は毅然として答えた。
「我が国は我が国だ」
「その国にはその国の政策がありますね」
「だからだ」
それ故にというのだ。
「協力する部分もあるが」
「しない部分もあり」
「ユダヤ人のことはだ」
「日本は日本で行っていきますね」
「彼等を迫害する理由はあるか」
樋口は安江に問うた。
「一体」
「何処にもありません」
これが安江の返答だった。
「全く」
「そうだな、ではだ」
「彼等には上海に行ってもらい」
「そこで然るべき場所で一時でもな」
「亡命先が決まるまでですね」
「いてもらおう、アメリカでないかも知れないが」
「少なくともオトポール駅からはですね」
「出てもらう、あの様な寒い場所に置いておけない」
決してというのだ。
「だ
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