暁 〜小説投稿サイト〜
魔法絶唱シンフォギア・ウィザード 〜歌と魔法が起こす奇跡〜
AXZ編
第193話:愛と涙を宝石に
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必死に足を引き抜こうとしていた。先程に比べれば少しずつだが亀裂が小さく泣てきている。あともう少しで亀裂が無くなり自由に動けるようになりそうだったが、それまでに颯人と奏が持つかどうか。

「がはっ!?」

 レギオンファントムの攻撃で吹き飛ばされた奏が地面に落下する。そこには偶然か、それとも壊れ行く彼を間近で見せる為にレギオンファントムが狙ったのか颯人が居た。もう後どれ程の時間の猶予が残っているかも分からない程に変異した彼は、完全に変異してしまった異形の手を彼女に向け伸ばした。

「アァ、ァァァ……! カ、カナ、デ……!」
「颯人……!」

 左ではなく右手を伸ばしてきた事に、奏は僅かながら身構える。だが彼は、奏に向けて伸ばしていた手を意志の力で引き離すと逆に左手を伸ばしてきた。震える左手がまるで助けを求めている様に自分に向け伸ばされてくるのを見て、奏は迷わずその手を取った。

「颯人……安心しろ。アタシはここに居るから。ずっと、ずっと颯人の傍に居るから」
「ッ!? ダ、ダメ、ダ……ハ、ハナレロ……カナデ……! オ、オレハ……モウ……」

 颯人は分かっていた。もう自分は戻れない。後数分も経たずに自分はファントムとなり、奏達の敵となって襲い掛かってしまう。それよりも早くに彼女を引き離し、残された命と引き換えにしてでもレギオンファントムを倒さなければ。残り少ない理性でそんな事を考えていた颯人だったが、奏はそれに対して否と答えより強く彼の手を握り締める。

「諦めるなッ! まだ、まだ終わってないッ! お前の希望はここに居るッ!」

 そう言って奏は彼の手を自身の胸元に押し付ける、温かな胸に包まれた手からは確かに彼女の心臓の鼓動が伝わり、それが場違いな安心感を彼に与えた。

「ア、ァァ……」
「奇跡ってのは、最後まで手を伸ばし続けた奴だけが掴めるんだ。だから颯人も、生きるのを諦めるなッ! お前の希望はここに確かにあるんだ! アタシの希望はそこに居るんだッ! だから、だから……!」
「カナ、デ……!」

 説得しながらも、彼女の目からは涙が零れ落ちていた。その涙が顎を伝って彼の左手に降り注ぐ。自らの手に滴る彼女の涙に、颯人は残された理性を総動員して彼女の体を抱きしめた。それを彼女は拒絶する事なく受け入れ、明滅する魔力の光を浴びながら小さな願いを口にした。

「だから……戻ってきてよ……颯人……」
「奏……俺、ハ…………!」

 奏の体を絞殺さない様に力を押さえながら抱きしめる颯人の、残された彼の顔の人間的な部分が全て罅に覆われ異形へと変異する。次の瞬間には彼の体は弾け、その下からファントムとしての姿を現すだろう。その瞬間を少し離れた所からワイズマンが今か今かと待ちわびていた。

「さぁ、来るぞ来るぞ……! 
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