結梨
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「ん? チノちゃん何か言った?」
「何でもありません……」
チノはぷいと向き、自らの業務に集中する。ハルトの目算が間違っていなければ、彼女はテーブルの同じところを何度もぐりぐりと磨いている。
「ウサギさん……?」
結梨がふと呟いた。
響と友奈の目線に気付かず、結梨の目線はチノの頭に静止している毛玉に向けられていた。
それは、ラビットハウスの看板ウサギ、ティッピー。
結梨の目線に気付き、少し怯えるように身の毛を逆立たせている。
「おっ! お目が高いねえ!」
だが哀れ毛玉は、いつの間にかやって来たココアに捕まり、さっと結梨の前に差し出された。
「はい! 結梨ちゃん! もふもふしていいよ! 終わったら、私のことをお姉ちゃんって呼んでね!」
「ココアさん、仕事して下さい」
チノはジト目でココアを見つめながら、テーブル掃除を終える。そのままティッピーを回収することなく、皿を片付けて厨房へ戻っていった。
実質飼い主から許可をもらえたようなもので、結梨は両手でティッピーをわしわしと掴んでいく。彼女の手がティッピーの頭を変形させる度に、ティッピーからは「ふおおおおおっ!」と喘ぎ声のようなものが聞こえてくる。
「チノちゃんの腹話術、遠隔からでもできるの凄いな」
「え? これ、どう見てもこのウサギから聞こえるように思えるのですが!?」
えりかのあり得ないツッコミをスルーしていると、真司がハルトに尋ねて来た。
「ハルト、もしかして……この子がマスターなのか?」
「ううん、この子のお父さんがマスターだよ。大学の教授」
「大学の教授で……子持ち……」
真司はゆっくりと頷きながら額に手を当てる。
「真司? どうしたの?」
「いや、昔その特徴に当てはまる知り合いがいてさ、ちょっと大変だったことを思い出した」
「……? コウスケも言ってたけど、大学教授って偏屈な人ばっかりなんでしょ? よくあることだよきっと」
「可愛い! ねえねえハルトさん! この子本当に可愛い! このままラビットハウスの妹にしようよ!」
「チノちゃんはええんかい」
思わずツッコミを入れたハルト。
またその頃合に、丁度可奈美がお盆を手にハルトたちの席にやってきた。
「ココアちゃん、それはちょっとサイコパスじゃない?」
可奈美は苦笑しながら、お冷を四つ、ハルトたちの前に置いた。
「チノちゃんが、ココアちゃんを呼んでるよ。早く厨房に来て欲しいって」
「はーい」
ココアは名残惜しそうに結梨から離れていく。
彼女を見送り、可奈美は盆から料理を手に取った。
「まあ、気持ちは分かるけどね。はい、響ちゃんにはウサギさんごはんセット大盛り」
「待ってましたッ!」
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