ある日の見滝原大学
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コウスケは大学のキャンパスを歩き回り、見知った顔を探した。
そして。
「お? 一ノ瀬?」
すぐ隣に、その見知った顔を見つけた。
今時珍しい三つ編みと眼鏡。二つの特徴が相まって、とても地味な印象を抱かせる彼女は、コウスケの前を横切り今まさに大学から出ようとしていた。
「多田さん?」
「よ、一ノ瀬。呼び止めて悪ィな。今いいか?」
「……何ですか?」
小さな声には、明らかにコウスケへの警戒心が浮かび上がっている。
あまり話したことないからな、と思いながらも、コウスケは手を合わせた。
「なあ、お前さっきまでオレと同じ講義受けてたよな? ほら、人類学の」
「受けてませんよ?」
「へ? でもオレ、お前を見かけたぜ?」
「プレ授業の話ですよねそれ?」
一ノ瀬と呼び止められた女性は、呆れたようにため息を付いた。
「すみません、私これからバイトなので急ぎます」
「お、おお……」
一ノ瀬はそう言って、そそくさとその場を立ち去ってしまった。唖然としながらそれを見送るコウスケは、「ぐああああ」と頭を掻く。
「マジかー……ラッキーだと思ったんだがな……ええい、次だ次!」
コウスケは改めて次の知り合いを探す。
「伊織……は休みか。あとは……」
「多田君、何しているの」
突如、誰かが腰をツンツンと指してきた。
振り返るが、誰もいない。
「多田君、こっちこっち」
その声は、下から聞こえてきた。
何と、コウスケの腰ほどの背丈の女性がこちらを笑顔で見上げていた。
「お、シノアキじゃねえか」
「だからフルネームやめてって……」
シノアキ。
紛れもなく、本名が志野亜貴だからこそ、知り合い全員にそう呼ばれているのだが、彼女はそれを言われるたびに止めるように懇願している。だが、誰もそれを止めることはない上、彼女もそれほど本気で止めようとはしていないため、もはや恒例行事になっていた。
「それで、多田君何してるの?」
「ああ。さっきの講義のノートをコピらせてほしくてよ。誰かいねえかなって」
「さっき? 多田君、何受けていたの?」
「人類考古学」
コウスケの返答に、シノアキは苦い顔を浮かべた。
「ああ、アレ大変だよね……教授の説明眠いんだもん」
「お? シノアキ、受けてたか? 頼む! ノート写させてくれ!」
「ゴメン、受けてたけど、それ去年の話なんだ……」
シノアキは手を合わせた。
「去年……」
「後、私も眠ってノートほとんど取ってなかったから、単位も落としちゃったんだよね」
「なん……だと……っ!」
ファントムを生み出しそうなほど絶望に沈みそうになったコウスケは、謝罪を繰り返す彼女を止め
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