ある日の見滝原大学
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「んがァ……ピンチはチャンス……」
「……ろ……きろ……!」
「待ってろ……全員オレが食ってや……」
「起きろ! おい、コウスケ!」
「がッ!」
その日、多田コウスケは突然の頭痛で目を覚ました。
「痛って……」
コウスケは頭を抱えながら顔を上げる。頭を振りながら、ようやくそれが九十度の角を持つノートで脳天を叩かれたことによる痛みだと理解する。
見滝原大学。
国内有数の私立大学の一つであり、見滝原内外から多くの学生が足を運ぶ大学で、コウスケは今年の四月から三階生になっていた。
退屈な講義はいつの間にか終了時刻を迎えており、すでに周囲の学生たちも次の講義へ移動を開始している。
そして目の前にいるのは、コウスケの友人の一人。コウスケよりも年下ながら、コウスケ以上に老けた顔付の彼は、面倒くさそうにコウスケを見下ろしていた。
「何を倒れている? よもや昨夜は機関とやり合っていたわけでもあるまい」
「倫太郎……ちょっと何言ってるか分かんねえ」
コウスケは合掌で礼を示しながら、そう呟く。キョロキョロと周囲を見渡し、その講義室には、コウスケの記憶よりも大幅に人数が減っていることに気付いた。
「もう終わったのか……悪ぃ、今の講義のノート後で写させてくれねえか?」
倫太郎と呼ばれた青年は、剃る気配のないあごひげを撫でた。
「フン。貴様は休息の代償としてノートを取らなかっただけだ。俺は貴様とは違い、休息に当てることが出来る時間を退屈な講義に費やすことを選んだ。貴様の___」
「あー、そうだよな……皆まで言うな」
彼からノートのコピーをもらうことは不可能。
毎度毎度長々と話を続けるのが彼の欠点だとコウスケは思いながら、荷物をまとめた。
「次は……ああそうか。アイツの送迎があるんだ」
コウスケはスマホを確認しながら呟く。
倫太郎の「アイツ? よもや、機関の送り込んだエージェントか!」とのたまう戯れ言を無視し、「お前はどうするんだ?」と聞き返す。
「フン。今興味深い話を聞くアテがあるのでね。今日は失礼させてもらうよ」
スタスタと立ち去っていく倫太郎を横目に、コウスケは寝落ちの代償をどうやって取り戻そうかと思考を張り巡らせた。
「コウスケのほかに同じ講義を受けてたやつ……誰かいたかな」
そう言いながら、コウスケは腕時計を見下ろした。
幸い、待ち合わせまでまだ時間がある。
この後、ハルトがこの大学へ再度訪れてくる。彼の目的は、シールダーである蒼井えりかのマスターと出会うこと。
コウスケがえりかに取り付けた約束から、彼女が自身のマスターとのアポイントを取り付けてくれたのだ。
それまでに、何としてでもノートを補完しなければならない。
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