第一章
[2]次話
サウナを置くと違う
高度成長から昭和も五十年経った頃のことである、山本重三は大阪の西成区で銭湯をしている、彼は今妻の幸恵と仕事が終わってからこんなことを話していた。
「最近アパートでも風呂あるな」
「世の中よくなってね」
「それでな」
白髪頭の老人で面長で皺だらけの顔である、一六六位の背で痩せている。妻は背中がやや曲がり真っ白の髪の毛で丸顔でやはり皺だらけの顔で小柄である。二人共穏やかな顔つきだ。
「うちの風呂にな」
「来る人が減ってるわね」
「このままな」
夫はさらに言った。
「どの家にもアパートにも風呂が出来て」
「シャワーなんてのも出来てね」
「ああ、それで自分達のところで入るとな」
そうなればというのだ。
「うちは潰れるぞ」
「今すぐでなくてもね」
「どうしたものか」
「それが問題ね」
「本当にな」
夫婦でこんな話をした、そしてだった。
これからどうするか考えてつつ仕事をしていった、その中で。
息子の隆賢、高校を卒業してから跡を継ぐ為に家の銭湯で働いている彼父親そっくりの顔立ちだが背は彼より十センチは高い彼が言ってきた。
「なあ、サウナ作らないか?」
「サウナ?何だそれ」
「蒸し風呂だよ」
父親にわかりやすく話した。
「あと電気風呂とか水風呂もな」
「うちの店に置くか」
「最近サウナの店増えててな」
そうなっていてというのだ。
「人気あるからな」
「うちにもか」
「ああ、サウナを置いたらな」
「お客さんが来てくれるか」
「これまでの風呂屋だとな」
「湯があるだけのか」
「もう駄目だろ」
こう言うのだった。
「ただ入って身体洗うだけじゃなくてな」
「サウナとかでか」
「楽しめる様にしないとな」
そうでないと、というのだ。
「駄目だろ」
「お客さんが来なくなってか」
「そしてな」
そのうえでというのだ。
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