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剣の丘に花は咲く 
第六章 贖罪の炎赤石
第一話 覚悟
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 どうしたのよ?」
「……」
「カトレア!」
「……っえ! な、何ですか?!」

 エレオノールもカトレアの様子に気付いたのか疑問の声を上げる。何度も声を掛けると、やっと気付いたカトレアがハッとした表情で、椅子に座ってこちらを見上げてくるエレオノールに顔を向ける。

「どうしたのよ一体? 何かあったの?」
「あ……その……いえ……何でもありません」

 チラリと士郎に視線を向けたカトレアだったが、結局なにも言わずエレオノールに小さく微笑みを返した。
 







 士郎たちはここまで乗ってきた馬車から、カトレアが乗ってきた大きなワゴンタイプの馬車に乗り換えることになった。カトレアがそう提案したのだ。エレオノールはそのことにぶつぶつ何か言っていたが、結局反対することなく顔を顰めながらも馬車に乗り込んだ。
 大きいというよりも巨大な馬車の中は、五人乗っても広々と広いだろうなと考えていた士郎だったが、馬車に近づくにつれ、その考えが怪しくなっていった。士郎の鋭敏な感覚が、馬車の中の複数の気配に気付いたのだ。漂う獣の臭いに、まさかという気持ちで馬車のドアを開いた士郎の目に、そのまさかの存在が入り込む。
 馬車の中には先客がいた。
 犬や猫、大きな蛇(膝の上に落ちてきたシエスタが気絶したが)はともかく、熊や虎も鎖に繋がれているわけでもないことに士郎は難色を示したが、襲ってくるような素振りが見えないことから黙って馬車に乗り込んだ。

「犬や猫はともかく虎や熊をこのままで大丈夫なのか?」
「…………」
「……ふむ」

 気絶したシエスタを膝枕しながら、士郎は隣に座るルイズに問うが、ルイズは顔を向けることなく黙り込んでいる。
 士郎は溜め息をつき、何とはなしに視線を前に向けると、カトレアと視線がぶつかり合った。

「っ!」
「?」

 視線が合った途端に顔を背けたカトレアの様子に訝しげな顔を向ける士郎が何か言うよりも早く、カトレアがルイズに話しかけた。

「る、ルイズ! わ、わたし最近つぐみを拾ったのよ」
「えっ! 本当! 見せて見せて!」

 カトレアの士郎を避ける様子に気付かず、ルイズがカトレアの話しに飛びつく。
 楽しそうに笑い合う二人の様子を士郎は浮かない顔を手で覆う。

 ……まさか……

 何かに気付いた様子の士郎が、難しい表情を浮かべ、前に座るカトレアをちらりと見た。

 








 日が落ち空に星が輝き出す。二つの月が中天から外れる頃、士郎たちが乗る馬車は目的地に到着した。
 そこはトリステインの宮殿よりも大きいだろう、空に輝く月や星に照らされ浮かぶそのシルエットは、まるで山のようだ。
 城のような屋敷ではなく、まさにそれは城であった。
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