第96話 狐の新しい職場
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は繁忙期と閑散期の差が激しい。ピラート中佐の言っていた任務の中で主となるのは、やはり接待や官製談合の方だろう。前世でゴルフはやったこともないし、接待もしたことがない。フェザーンで駐在武官をしていた頃は、市中散策とドミニクの店、それに内勤が中心だった。弁務官事務所主催のパーティーには参加したが、あれも接待というよりは情報交換会に近いものがあった。なるほど追々覚えていかねばならないことが多い。
コツンという音を立てて、磨き上げられたカップがコーヒーテーブルに置かれる。戦艦エル=トレメンドでブライトウェル嬢が淹れてくれていた官給品とは桁違いに香りが伸びてくる。これもピラート中佐が残していってくれたのかなと思ったが、次のカップが俺のカップの横に置かれたのに気が付いて右に首を廻すと、憂いと母性に溢れた顔のチェン秘書官が俺の右横に腰を下ろしてきた。
「は?」
「あら?」
こちらは困惑。そちらは慮外。しなだれてくるチェン秘書官の胸のブラックホールは明らかに広くなっている。が、それはあくまで周辺視野に留めておき、俺は何とか表情筋を動かしいつもの好青年将校スマイルで前の席を指し示すと、チェン秘書官は何事もなかったようにゆっくりと腰を上げ、もみあげにかかった絹糸のような黒髪をたくし上げて、俺の正面に移動した。
「ボロディン中佐は真面目でいらっしゃいますのね」
細い足を組むと短いタイトスカートの裾が少しずつ上がっていくが、そちらにも今のところ興味はない。二六歳で中佐というのは確かに早い出世ではあろうが、こうも明け透けに色仕掛けをされるほど俺は重要人物に見られているのだろうか。おそらく見られているんだろう。実態はともかく第五艦隊編成予算と引き換えに引き抜いた逸材として。
「ですが真面目が過ぎますと、足元を掬われることもありますわよ。特にこちらの世界では」
「こちらの世界、ですか?」
「えぇ。ここはビームもミサイルもトマホークも襲っては来ませんけれど」
確かに今、アンタ自身が襲いかかってきたもんね、とは口には出さなかったが、コーヒーカップの淵の向こうにみえるチェン秘書官の顔はともかく小さな瞳に、先程迄の甘い香りは一切浮かんでいない。
「特に前科のある家庭にイレ込むのは、あまりお勧めいたしませんわ」
「……チェン秘書官」
それはこちらの世界にいる人間にとってみれば真理なのだろう。だがチェン秘書官の立ち位置がよくわからないが、少なくとも俺と同一ではないということははっきりした。彼女自身の『身体検査』はワインを代償にプロにお願いするとして、まずは言っておかねばならない。この場は誤魔化してもいいが、どうせ早晩バレる話だ。
「本人が罪を犯したわけでもないのに、罪人の家族であるというだけで前科があるという言い方は実に不快だ。貴女は
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