Quatre
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声に媚びが混じる。…間違ったかもしれない。わたしはまだ「子供」だから、最初からそんな風にしては疑われてしまう。
しかし、本当のスパイ活動の際には、「間違った」なんて甘ったれたことは言っていられない。間違ったなら、その先をどうするか。
「わたし」は、貧しい家の子で、小さいころから街角に立たされてきた。今のご時世、そんな子は珍しくない。だから、男にも慣れていて、こんな仕草も、声の甘えも、自然にでてしまう。そう、思い込むのじゃ駄目。わたしが本当に貧しくて体を売って生活するような中にいたら、「思い込む」わけがない。だってそれが、経験してきた「過去」であり「事実」なんだから。わたしはそういう人間だったと、何ていったらいいんだろう、過去に呑みこませる、ようにしている。現実の時間は流れていて、綸言汗のごとし、一度口にした言葉は取り返す事が出来ない。辻褄は、どこかで合わせなければならない。疑問も消し飛ぶくらいの、偽りで真実をつくって。
「…本当に?」
すぐに見破るかと思いきや、予想に反してルパンの声に真剣さが滲んだ。顔つきがすっと変わる。緑の瞳に熱が揺らいだ。
抱きあげられているせいで顔の位置がずいぶんと近い。シミひとつないルパンの肌を拳ひとつぶん程の距離で見つめる。
はにかんで頬を染め、瞳を伏せる、「わたし」。
「わたしのこと、すき(テュメーム)?」
ルパンの頬から顎を、人差し指で辿りながら聞く。
「…心から愛している(ジュテムデュフォンドゥモンクール)」
「ルパン」
わたしは左腕をルパンの首にまわした。薄い爪で髪と一緒にルパンの首筋を弾く。
「キスして(アンブラッセモア)」
一呼吸置いた後、細い指に顎をすくい上げられる。
わたしはルパンの瞳を見詰めたまま、ゆっくりと首を傾け瞼を伏せた。唇に、ルパンの吐息がかかる。わたしはじっと待つ。薔薇の匂いが一層強くなった、その時。
「私の負けだよ、愛しいひと(マシェリ)」
その場の甘ったるい雰囲気をがらりと変えるような苦笑がルパンから漏れた。同時に、気配も離れる。
「いけない子だ。こんな悪いこと、どこで覚えてきたんだ?けれど…ナリョーシャ、動揺ぐらいしてくれないか。きみが引かないから、ついやりすぎてしまった」
「離して」
私は途端に無表情に戻ると、ルパンの胸を押した。
ルパンはゆっくりとわたしを冷えた床に降ろす。
「ナリョーシャ、この前渡した、靴は?」
「さぁ?」
気がついたら消えていた。大方、
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