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冥王来訪 補遺集
第二部 1978年
原作キャラクター編
追憶 ユルゲンとソ連留学の日々
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そして完璧に実行せよ」
「はい」
ゲルツィンは手を伸ばした。
何処か、おごそかな姿だった。
「約束できるか」
「わが命に代えて」
密書は、彼の手に渡った。
「では行け。ソビエトの為、党の為、そしてこのKGBの為にな」
氷のように冷静にいった。


 ゲルツィンが去った後、KGB長官は立掛けた1メートル近くある野太刀(シャシュカ)に、手を伸ばす。
脇に立つ特別部部長は、
「明日のイズベスチヤ(ソ連政府機関紙)にシュミットに関する声明を掲載する手はずです。
先の東ドイツの事件は、彼の私怨(しえん)遺恨(いこん)によるもので、ソ連は関係ないとするつもりです」
と告げるも、立ち上がったKGB長官は、握った長剣を剣帯に()きながら、
「その線で行き給え」
と答え、ドアを開けて、静かに室外へ去っていった。

 KGB長官は、一人、庁舎の屋上に立ち、涼しいシベリアの夜風を浴びながら、天を仰ぐ。
何か思い出したように、突然、佩いている剣の(さや)を握って、ぴゅっと、剣を抜き去り、
(ゆる)してくれ、ゴーラ」
――ゴーラとは、グレゴリーの愛称である。
シュタージ少将のエーリッヒ・シュミットの本名はグレゴリー・アンドロポフであった――
シュミットへの追悼をいいながら、またも一振り二振りと、虚空(こくう)に剣光を描いて、
「KGBの組織を守るためには、こうする他に道はないのだ」と、叫んだ。
走らせる剣の声は、まるで男がシュミットの横死(おうし)に対して、慟哭(どうこく)するかのようであった。
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