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冥王来訪 補遺集
第二部 1978年
原作キャラクター編
追憶 ユルゲンとソ連留学の日々
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事は明かしてくれなかったが、俺はあの人がエリスタ当たりの出身と睨んでる」
ユルゲンは、仏教徒と言う事でゲルツィンの出自をカルムイクと勝手に類推していた。
――ソ連政権は1920年から1960年まで宗教の大弾圧をおこなったが、フルシチョフの『雪解け』以降徐々に緩和していった。1970年代に大都市部では仏教の信奉者が復活し始めていた――
 
 ベアトリクスは、酒杯を片手に、何時になく興奮して話すユルゲンの様を見る。
普段は怏々(おうおう)としており、何処か自信なさげなこの男に旨酒(ししゅ)がすっかり(まわ)ったのであろうか。
満面に朱色を(たた)えて、淀みなく話す様を見ると、どこか悲しい物を感じ取っていた。
「俺と同じ空軍パイロット出身の衛士と言う事を聞いた」
「へえ、余程の変わり者でしょうね。問題児の貴方が惚れ込む人なんて」
ベアトリクスは、そう悪びれもなくいうと、同時に、貰った杯で、唇を濡らした。
「放っておいてくれ」
「こうして毎夜、あなたの口から、広い四海(しかい)遊弋(ゆうよく)しているさまざまな人たちの存在を聞くのは、なんとも愉快でたまらないの」 
そう語るベアトリクスからは、いつになく(あや)しい香気が匂い立つようであった。
椅子より立ち上がったユルゲンは、恍惚(こうこつ)と、見まもりながら言った。
「そう、いや、それで思い出したが」
「なんか面白い事でも」
「あの頃は夜毎(よごと)、君を(おも)って、寝れなかったものだとね」
ユルゲンは、思い入れたっぷり、ベアトリクスの顔を眼のすみからぬすみ見る。
さっきから少しずつ酒も入っていたベアトリクスの白磁の様な皮膚は、そのとき酔芙蓉(すいふよう)の様に、紅をぱっと見せて伏し目になった。
グラスをテーブルに置くと、ベアトリクスの方にずかずかと歩み寄り、いきなりベアトリクスの肩に手を掛けた。
「ベア、俺の熱情を、君はなんと思う。……(みだ)らと思うか」
「い……いいえ」
「うれしいと思うか」
たたみかけられて、ベアトリクスはわなわな震えた。情炎の涙が頬を白く流れる。
「一体こんな心にしたのは誰よ。ひどいわ。薄情ねえ」
幅広い胸のなかに、がくりと、人形の様な細い(うなじ)を折って仰向いたベアトリクスは、ユルゲンの炎のような瞳にあって、まるで魔法にかかったかのように引き付けられていた。







――同時刻。
ソ連・ハバロフスクにあるKGB臨時本部では、二人の男が密議を凝らしていた。
「まこと、申し訳ございません。よもやこんな事になろうとは……」
午下(ごか)、KGB本部に呼び出された特別部(オーオー)部長は顔色なく、KGB長官に、深々と頭を下げる。
 特別部とは、|особая отдел
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