第二部 1978年
原作キャラクター編
追憶 ユルゲンとソ連留学の日々
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1978年6月某日。
深夜22時、ドイツ民主共和国の首都ベルリン。
ここは、東ベルリン市パンコウ区にあるベルンハルト邸。
その屋敷の奥にある閨で、人の気配に感づいたベアトリクスは、はっと寝台の上から身を起こす。
被っていた灰色の毛布から抜け出し、濃紺の寝間着姿のまま、一人窓辺に立つ人物の方に向かう。
その人物は彼女の良人であり、東独軍戦術機隊の主席幕僚、ユルゲン・ベルンハルトであった。
深緑色のナイトガウンに黒無地のサンダル姿で佇む彼の傍に行くなり、
「複数の命を預かり、状況の判断を求められる指揮官は、率先して寝るべきよ。
それにあまり夜更かししていると、明日に影響するわ……」と、背の君を窘めた。
ユルゲンは、薄い笑いを浮かべながら、
「眠れないんだ、昔の事を夢に見てな……」
と、氷の入ったグラスを傾け、
「酒は俺が、飲みたいんでな。つきあってくれ。それとも、嫌か?」と、新妻に訊ねる。
ベアトリクスは柳眉を顰めつつ、
「嫌なんてこと、ないけど……」と返す。
ユルゲンは満面に喜色をたぎらせて、
「いいじゃないか。どうしたことやら、何かしらこう、お前と一緒に、一口過ごしたくなってな」
と言うと、月明りで照らされた窓外の景色を眺めていた。
ベットの脇にあるランプの明かりをつけると、ユルゲンはベアトリクスの手を引いて、
「この際、妻になった君には、ソ連時代の事も詳しく明かして置こう」
そういうと、机に腰かけ、語り始めた。
「俺がソ連留学したことを知ってるよな」
ベアトリクスも椅子を脇に寄せ、くっつく様に座り、と応じる。
「モスクワ近郊のクビンカにいたんだっけ」
クビンカとは、モスクワから西に60kmほどの場所にある都市である。
ここにはソ連空軍基地の他に、隣接する様に広大な演習場を持つクビンカ戦車博物館がある。
同地は世界大戦前は装甲車両中央研究所であった。
「そうだ……4年前の夏だったかな。
君たちがまだ生徒で、俺によく水泳大会の結果を、書いて寄越した頃だよ」
再び酒杯を傾けた後、ゆっくりと語りだす。
「エフゲニー・ゲルツィンという人が、俺達ドイツ軍の教官として指導してくださった」
「どんな方なの……」
「スラブ系なのに珍しく仏教を信仰している風変わりな人でな」
ロシアには蒙古のくびきの影響で、13世紀には仏教が伝来していた。
ソ連スタブロポリ沿海地方に隣接し、カスピ海の北西に位置するカルムイク地方。
同地には、地続きの支那や蒙古から移住した騎馬民族が多数いたのも大きかった。
一般的に、ロシアでは仏教と言えば、蒙古経由で伝来したチベット仏教であった。
「詳しい
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