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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第95話 大河手前の落とし穴 
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鉱山帯を利用した半官半民のセクター案について、地域社会開発委員会はベタ褒めだったぞ。その上、エル=ファシル住民帰還事業でも政・官・軍の連携を取り持った君のリーダーシップは、私の知人の間でもよく知られている話だ」

 三流利権政治家と自称するにしては、信じられないことに俺のことをよく調べている。勿論怪物に言い含まれてのことだろうが、軍人の、特にヤンが軍事的名声を背景に政界に進出し、自分達の権力の牙城を失うことを恐れてベラベラと外国人のブレツェリに愚痴っていたアイランズと、隣にいるアイランズが同じ人間には思えない。

「先生」
 だからこそ、確認しておかねばならない。
「先生はブルース=アッシュビー元帥が第二次ティアマト星域会戦の前に放言した内容について、どうお考えですか?」
 果たしてアイランズの反応は激烈だった。眠そうな瞳が大きく開き、俺の顔の毛穴の全てを覗き込まんと言わんばかりに、睨みつけてくる。
「巨大な武勲を背景として高級軍人が政治家に転出するのは好ましくない。軍人が命を張って帝国軍と戦っていることには心の底から感謝しているが、武力組織を背景として政治権力を得ようというのは、独裁の芽となる」

 軍籍を外れ選挙を経たとしても、軍内部に強力なシンパを抱える元軍事指導者の政界転進は拒否したい。それが合法であっても自分達の権力を失うような事態になるようなら非合法にしたい。流石にブレツェリの明け透けな回答には不快を感じたアイランズだったが、やはり心の底には真実の欠片があった。

 そうなると俺が国防委員会によって爺様の幕僚から外された理由もだいたい想像できる。爺様が政治家になるような人間ではないのは明らかだが、シトレやロボスは違う。シトレ派の若手で士官学校首席卒業者。マーロヴィアで行政企画立案能力にも、エル=ファシルで行政間調整能力にも、政治工作にそれなりに使えそうな士官を、有力な仮想敵派閥の下に置いておきたくはない。最低でも派閥から引き剥がす、出来れば自分の子飼いにしておきたい……あまりにも俺に対して過大評価とは思うが、そう考えればこんな横槍人事にも納得できる。

 今回のカプチェランカの戦いで第四艦隊の出動を国防委員会が躊躇したのも、シトレを敗北させたいといった意図があった可能性がある。モンティージャ大佐の言うように後方からの情報流出は充分にありうることだ。そうやって上手に軍内部の派閥の牙を適度に抜きながら、武勲と昇進とを駆使して自分の子飼いになるよう仕向けていく。

 もしアスターテ星域会戦で同盟軍が大勝利を収めていたらシトレの引退は早まり、ロボスも早晩その後を追うことになっただろう。金髪の孺子によってトリューニヒトは大きく計算を狂わされたに違いない。手柄を立てさせたい三人の提督(パエッタは生き残ったが重傷)を失い、よりに
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