第95話 大河手前の落とし穴
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たな?」
そりゃあ、確かにその時には爺様の部下ではないからなぁ……と、圧のかかっている右手の痛みを堪えるのだった。
◆
宇宙歴七九〇年 五月一三日 第四四高速機動集団は解隊されることになった。
解隊と言っても将兵の大半が第〇五一九編制部隊に移籍となるので、消滅するわけではないが編制上の部隊と司令部は抹消されることになる。統合作戦本部長公室において、爺様の手から隊旗がアルベ本部長に返却され、代わりに同席している人事部長から司令部要員全員に対して国防従軍記章が与えられた。
爺様の略綬の上には星がいくつ乗っているのか分からないくらいだが、俺はこれが二個目なので小さい銀の五稜星が一つつくことになる。礼服必須の式典とかには付けなければならないんだが、外れやすくてその上小さいから、めんどくさい事この上ない。
また従軍記章の付与と共に、昇進の辞令が下る。爺様は中将に、モンシャルマン参謀長は少将に、モンティージャ中佐とカステル中佐は大佐に、ファイフェルは少佐に昇進することになった。特にファイフェルは恐らく同期の中でもかなり早い方だろう。もっとも原作通りであるのならば、ここから五年以上彼は昇進できないのだが。
そして俺も少佐から中佐に昇進することになった。ただし爺様達とは違い、その場では新任地が呼ばれることはなかった。つまりは待命指示。このまま二年塩漬けで予備役編入というのもあるかもしれない。仮にそうなるとすれば、第五次あるいは第六次イゼルローン攻防戦で喪失した艦艇の補充要員として現役復帰か、それとも第一一艦隊再編成時の補充要員か。いずれにしても予備役の応召義務が解除される年齢よりも先に、金髪の孺子がハイネセンにやってくる。
半年。爺様は半年我慢せよと言っていたが、正直わかったものじゃない。左遷ではないという条件であったとしても、統合作戦本部の内勤で軍人のキャリアを終える可能性だってある。戦死しないことで人生の勝利と言えないこともない。だが何の因果かこの世界に産まれて何もなすことなく、最後にジーク・カイザーと叫ぶだけで終わるなどごめん被る。
じわじわと日が経つごとに心を圧迫してくる現実に、俺は爺様達との食事会をあえて断って統合作戦本部から歩いて帰ることを選んだ。日はまだ高いが市街地までは距離がある。舗装された道をあの日のジェシカと同じように、影を引きずりながら足を進める。本部の中の密なる喧騒とは正反対の、静寂と開放に溢れた世界。確かにこれならジェシカも、マスクを被った鼻歌のヘタクソな連中の足音に気が付くだろう。まして俺を追っかけてくるような自動車の音ならば猶更だ。
「き、君は、はぁはぁ、その、意外と孤独主義者なのかね?」
国防委員会のナンバーを付けた自動運転車が、俺の左脇を猛スピードで通過した
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