暁 〜小説投稿サイト〜
ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第95話 大河手前の落とし穴 
[6/10]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
、今少し現場を知るべきだと儂は考えておるし、その考えが間違っているとも思わん」
 腕を組んだまま目を閉じ、小さく首を傾ける爺様の眉間には深い皺がよっている。
「軍政・後方勤務の経験をせず重要性を理解できぬまま軍の高位に辿り着くことは、軍事組織の健全性から言っても間違いじゃ。それは分かる。が、階級が低い時期に現場を離れてしまうと、どうしても将兵の犠牲を数字でしか捉えることのできない上級士官が出来てしまう」

 一個艦隊だけで一四〇万人にも及ぶ将兵。国家戦略の視点から見れば犠牲は数字。一〇〇や一〇〇〇といった数字だけ見れば、誰かの台詞のようにちっぽけなものにしか見えない。だが軍事行動において、その数字は人命そのもの。

「国防委員会も統合作戦本部人事部も、貴官の左遷や更迭を考えているわけではないようじゃ」
「……」
「貴官のキャリアが傷つくような扱いを人事部がするならば、容赦はせんとサイラーズには話してある。サイラーズも儂には言わなかったが、貴官にはそれなりの職責が与えられることは保障した」

 それがシトレ派としての爺様の妥協点だったのだろう。シトレが仮にハイネセンに戻っていたら、第五艦隊再編の目途すらつかなくなっていた可能性が高い。篤実な宇宙艦隊司令長官であるサイラーズ大将の苦肉の策が分かるだけに、爺様も最終的には了解したということだ。ということは、俺にできることはもうない。

「司令官閣下とご一緒できるのは、第四四高速機動集団の解隊式までとなりますね」
「シトレも運動するじゃろうから、まずは半年じゃな。第五艦隊もそのくらいになれば出動ローテーションに入ることになるじゃろうて」
 それまでは『我慢せいよ』ということだろう。取りあえずは一ケ月。第四四高速機動集団の解隊残務処理と、ブライトウェル嬢の家庭教師に努めることになる。
「どんな場所にあろうとも、実戦の勘を鈍らせるな。儂からジュニアに言えることといったらそのくらいじゃな」
 
 そういうと爺様は先に立ち上がり、俺に手を伸ばしてくる。年季の入った手はごつく、人差し指の一部が盛り上がっている。その手を握る俺の手はトマホークのお陰で一部は厚くはなっているが、苦労知らずと若さでツルツルとしている。

 おそらく俺が爺様のように戦場で引き金を引く仕事に就くことはないだろう。だが爺様の名を辱めることのないようこれからのキャリアで示していかねばならない。

「あぁ、それとな、ジュニア」
 爺様は手を握ったまま、イジワル孺子のような目で俺を見つめて言った。
「儂は貴官の艦隊戦闘・運用センスについては高く評価しているつもりじゃが、女性との付き合い方のセンスについては全く評価しておらん」
「……は、はぁ」
「仕事はサボって構わんから、せめて午餐会には出てやるんじゃぞ? わかっ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ