第95話 大河手前の落とし穴
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考えていると司令官公室の扉が開きファイフェルが飛び出してきた。
「ヴィクトール=ボロディン少佐、ビュコック司令官閣下がお呼びです。お一人で」
「わかった」
それはモンシャルマン参謀長が付いてきたら困る話ということだ。何も言わない参謀長の眉間に深い皺が寄っているのを見るに、あまりいい話ではないというのは充分に推測できる。扉の外端で見送るファイフェルに軽く敬礼して司令官公室の中に入ると、爺様は自分のデスクではなく応接のソファに座っていた。
「まぁ、立ってないで座れ」
爺様は俺を手招きした後、自分の前の席を指し示す。俺がそれに従いソファに腰を下ろすと、恐らくファイフェルが淹れたであろう温くなった珈琲を傾けた。二口三口。皿に戻ってから三〇秒。ようやく爺様は口を開く。
「本来ならば儂はジュニアを第〇五一九編制部隊の作戦参謀兼運用参謀に任じるつもりじゃった。じゃがサイラーズもアルべも、名指しで貴官を第〇五一九編制部隊から外すよう儂に命じてきおった」
方や大将、方や元帥を呼び捨てにする爺様の気圧は言葉が進むにしたがってどんどんと下がっていく。
「儂はジュニアを幕僚から外すようなら、第五艦隊を率いるつもりはないと二人には言った。それでも二人とも言いにくい態度じゃったが、どうやら別口の差出口があったようでな」
「……国防委員会、ですか?」
宇宙艦隊司令長官も統合作戦本部長も言いにくくなる相手と言ったら、やはり『そこ』しかない。第四四高速機動集団編成時にも俺について口を挟んできた。あの時は押し切れた。しかし今回は押し切れない事情があるのか……
「第四四のカプチェランカにおける行動を、シトレも宇宙艦隊司令部も問題にはしていなかったが、国防委員会としては問題と判断したらしい。命令違反の原因である貴官を幕僚に任じるならば、第五艦隊の編成予算承認を今期予算内では下ろさないとまで言ってきおった」
「場合によっては軍法会議も辞さないと」
「別に貴官だけではない。命令を出したのは儂じゃから、儂も同類じゃ。じゃが宇宙艦隊司令部も統合作戦本部も、軍法会議の開催については断固拒否することで一致しておる」
明らかな言いがかりでも隙は隙。その隙に付け込み、予算を人質に取って、法に拠って保障されている軍司令官の有する任用権を犯そうとしている。
もし今季予算内で第五艦隊の新編成が認められないのであれば、シトレが幾ら運動したところで編成開始時期は来期……つまり今年の九月開始となる。軍法会議が開催されるようなことになれば、艦隊司令官職の選任は振り出しに戻され、新艦隊編成の計画そのものが躓くことになる可能性だってある。それは司令長官も本部長もシトレも爺様も望むところではない……
「シトレ中将がハイネセンに戻ってくるまで、
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