第95話 大河手前の落とし穴
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もはや疑いないが、他にも『前』第五艦隊所属部隊などが統合作戦本部や宇宙艦隊司令部から提示されるだろうから、その切り貼りも前回の比ではない煩雑さがある。その部隊指揮官の数も人間関係の複雑さも。
だが同時にやりがいも大きい。艦隊戦闘における勝敗だけが制式艦隊の全てではない。その存在自体が国家戦略の重要な一片。その一挙手一投足が、国家の盛衰に関わってくる。それに作戦参謀として関与できるというのは、恐ろしくもありまた嬉しくもある。ようやく金髪の孺子の陶器人形のような美しい首根っこに手を伸ばす権利を得られた、というべきか。
よっこらせっと、わざとらしく声を立てて爺様が席を立つと、スタスタと司令官公室に繋がる扉を開けて出て行くので幕僚全員は、慌てて爺様を追っかけていくファイフェルを含めて敬礼で見送ったが、爺様は振り向くことなく扉の向こうへと消えていく。
「……らしくないな」
視線だけで爺様を見送ったモンシャルマン参謀長の呟きが耳に残る。俺はモンシャルマン参謀長ほど爺様と長い付き合いがあるわけではない。俺の疑問の視線に気が付いたのか、参謀長は僅かに肩を竦めて応えた。
「こういう時の司令官閣下はスパッと『仕事しろ』と言って終わりなんだが、ああもグチグチ言うもの珍しい。艦隊編成でなにか面倒な条件でも付けられたかな」
確かにヤンが第一三艦隊司令官に任じられた時、イゼルローン要塞攻略戦とセットだった。爺様の第五艦隊が原作に登場するのは二年後の第五次イゼルローン攻防戦。だがそれまでに帝国軍と戦うことはないという理由はない。現にこれまで原作にない戦いを俺は戦ってきた。
「しかし、エル=ファシル、アスベルン、アトラハシーズ、カプチェランカとここ一年でビュコック司令官閣下は四度も会戦しておられます。作戦行動回数で言えば二回ですが、いずれも長期間戦闘です。それに加えて制式艦隊が編制され実働編成に至るには、最低でも半年は必要になります」
今は九年後の同盟末期のような危機的な戦力不足でもない。制式艦隊がまともに運用できるようになる為には、本来それくらいの時間でも足りない。戦場に事欠かないのは確かだが、爺様が出来合いの艦隊を率いて戦いに赴かなければならないような状況は、今のところないはずだ。
「情報部も新艦隊編成については聞いてはいるが、出征の話はさすがにないぜ」
「後方本部も戦略輸送艦隊も特に急ぎの用事はないようだ。あるとしたらカプチェランカへの第三梯団だろうが、そうだとしても半年以上先の話だろう」
モンティージャ中佐もカステル中佐もそれに同意する。となれば参謀長の勘違い、ということになるのだが長年の勘というモノはそう軽視できるモノではない。耳聡のキャゼルヌに聞くか、統合作戦本部にいる同期・後輩に当たるか、そうぼんやりと
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