第131話『来訪者』
[2/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
登自身がそうは思っていなくとも、助けられた相手は決して忘れない。
「べ、別にそんなことないって。友達として当たり前だよ」
「……やっぱり晴登君はかっこいいね。結月さんが好きになるのもわかるな」
「え?」
「な、何でもない! 何でもない!」
「ヒーロー」と呼ばれて照れていると、続けて狐太郎が何かをボソッと呟く。結月がどうとかと聞こえたが、訊き返すとはぐらかされてしまった。
「いつか恩返しができると良いんだけど。あ、そうだ、僕の尻尾触ってみる? 他の人は抵抗あるけど、晴登君だったらいくらでも触っていいよ」
「え!? いや、それはさすがに……」
「遠慮しなくていいって。自分で言うのもなんだけど、結構触り心地良いと思うよ」
そう提案して、狐太郎はふさふさの尻尾を揺らす。その艶やかな毛並みを見ていると、触るどころか抱きしめたくなる衝動に駆られてしまうが、
「す、凄く魅力的な提案だけど、またの機会にしておくよ」
2人きりならまだしも、今は文化祭中で周りに人も多い。人前で狐太郎の尻尾に抱きつこうものなら、それはセクハラと相違ないのではないだろうか。ゆえに、晴登は唾を飲み込んで我慢する。
もう教室は目の前だ。早く戻ってみんなに謝らないと──
「今戻りました──」
「遅い」
「ひっ」
晴登が入口から顔を出すのと同時、鋭い視線と低い怒声を浴びる。それに気圧された狐太郎が小さく悲鳴を漏らした。
「伸太郎!? 何でそこに──」
「誰のせいだと思ってんだ。理由も言わず出て行きやがって。そのせいで突然表に駆り出された俺の気持ちを考えてみろ」
今にも人を殺しそうな険しい表情をしていたのは、会計の担当だったはずの伸太郎だった。彼は晴登と狐太郎の欠員を埋めるべく、裏から引っ張り出されていたのである。
様子を見るに、かなり怒っているのは言うまでもない。ここはちゃんと謝って穏便に済まそう。
「すいませんでした……」
「ごめんなさい……」
「ちっ。早く持ち場に戻れよ」
「あ、そうだ、聞いてよ──」
「話は今日の仕事が終わってからにしろ」
「……はい」
と、弁明がてら狐太郎について話そうと思ったが、呆気なく一蹴されてしまう。彼にとっては、今すぐ仕事を代わってもらう方が優先らしい。
当然その要求に逆らえる訳もなく、それから2人は黙々と仕事をこなすのだった。
*
「やっほー! やってるー?」
「思ったより人来てるな」
「あ、ダイチ、リナ、いらっしゃいませ!」
「うお、イケメン……」
「そりゃ集客もバッチリな訳ね」
午前が過ぎようとしていた
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ