第3部
ムオル〜バハラタ
見張り台の上で
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じた。
「ホント!? よかったあ!」
つい嬉しくて、大声を上げてしまった。だが今ので私たちに視線を向ける人は誰もいなかった。
「ご、ごめん。嬉しくてつい……」
「……いいから行くぞ」
私が慌てて弁明すると、先にユウリが甲板へと向かって歩きだした。甲板には数人の船員がいたが、みんな自分の仕事に集中していて私たちには気づかない。
やがて何事もなく見張り台の下までやってきた。夕食前に見張りの船員に話をつけてきたので、今この上には誰もいないはずである。
私は両手に荷物を持ったまま、梯子に手をかけた。するとすぐに、ユウリが私が持っている荷物の片方を取り上げた。
「そんな状態で登ったら絶対落ちるだろ」
呆れたようにユウリが言うと、そのまま彼は自分の分の食事を持って梯子を登り始めた。さりげない気遣いに心が暖かくなるのを感じながら、続いて私も彼の後をついていく。
マストを見下ろすほどの高さにある見張り台までやってくると、思いのほか風が強かった。いろいろな国や町を回り、いつしか季節は夏を迎えていたが、それでも夜の海上はまだ肌寒い。私は身震い一つすると、その場にしゃがみ込み、早速袋からサンドイッチとスープを取り出した。
「うわあ、おいしそう!!」
あらかじめ焼いておいたパンを薄切りにして、塩漬けにした魚とチーズ、天日干ししたドライトマトを挟んだサンドイッチは、見ているだけでもお腹が空いてくる。容器に入れておいた作りたてのスープは今もなお湯気を燻らせ、空腹の私の鼻の奥をくすぐってきた。
「本当にお前は色気より食欲だな」
「う……、食事は生きる上で一番大事でしょ」
私の言い分を無視し、ユウリもまた私の隣に座ると、同じように袋から出して食事を広げた。それを確認すると、私は大きく口を開けた。
「では、いただきまーす!」
「……いただきます」
分厚いサンドイッチをほおばると、口の中に様々な味や食感が広がってくる。あらかじめ仕込んでおいたという、何種類もの野菜を極限まで煮込んだソースとの相性も抜群で、あっという間に食べ進めてしまう。時々スープを飲んで口の中を潤すと、徐々に体がポカポカあったまってきた。
ああ、やっぱり料理長の作る料理はおいしいな。私は料理長に感謝しながらひたすら食べ続けていた。そして、危うくここで食事をした意味を忘れそうになり、はっと我に返る。
そうだった、ユウリに話を聞くつもりだったんだ!!
慌てて視線をユウリに向けると、彼はこちらを見ながら黙々とサンドイッチを食べている。一体いつから見ていたんだろう。
「な……、なんでこっち見て食べてるの?」
「お前の食いっぷりがあまりにも爽快でな。つい見入っていた」
どうやら褒めているようなのだが、ちっとも嬉しくない。
「そ……、それって遠回しにバカにしてるで
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