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毒親じゃなくてよかった
第一章

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                毒親じゃなくてよかった
 大学生の上坂信也、小さな目と細面にやや長い黒髪の一八〇を超えた背の彼はある日家で自分そっくりのサラリーマンの父に尋ねた。
「あの、和博さんって」
「お前の大叔父さんのか」
「何か凄く評判悪いね」
「ああ」
 父は息子に憮然として答えた。
「もう死んで随分経つけれどな」
「僕が生まれてすぐだったね」
「身体のあちこちボロボロになってな」
 それでというのだ。
「死んだよ」
「そうだよね」
「あの人は最低だった」
 父は息子に憮然として言った。
「本当にな」
「そんなに酷かったんだ」
「酒に女の人にな」
 まずは遊びのことを話した。
「ご家族に暴力振るって」
「凄いね」
「覚醒剤までやってな」
 息子にこのことも話した。
「本当にな」
「最低だね、覚醒剤って」
「そんな生活だったからな」
 それでというのだ。
「六十にもなってないのにな」
「死んだんだ」
「ああ、太く短くじゃなくてな」
「最低の生き方だったんだね」
「お前もそう思うな」
「女遊びって浮気だよね」
「そうだ」
 父はその通りだと答えた。
「そっちも酷くてな」
「しかも暴力もで」
「覚醒剤までやってた、ヤクザ屋さんとも付き合いあってな」
「どう聞いても最低だよ」
 信也は顔を顰めさせて言った。
「本当に」
「今もよく言う人いないわね」
 母の恵子、ふっくらとして黒髪を長く伸ばしている小柄な優しい顔立ちの初老の彼女も言ってきた。
「あの人は」
「そうだよね」
「お母さんから見てもね」
「最低だったんだ」
「ああした人にならない様に」
 息子に言うのだった。
「あんたを育てて来たのよ」
「ああなると幸せにはれないからな」
 父も言うことだった。
「だからな」
「けれどひいお祖父ちゃんもひいお祖母ちゃんも特に」
「おかしくなかったけれどな」
 父が答えた。
「高校まではまともだったんだ、けれどあの人は商売の才能があってな」
「そっちではよかったよな」
「就職してすぐに独立して」
 そうしてというのだ。
「あっという間にでかい会社にしたけどな」
「ヤクザ屋さんと付き合い出来て」
「そっちで儲ける様になってだ」
「そうなったんだ」
「人付き合いも考えないとな」
「ヤクザ屋さんと付き合ったら駄目だよな」
「ああ、本当にな」
 息子に苦い顔で話した。
「あの人死んで骨もな」
「なかったんだよね」
「覚醒剤で骨も歯もボロボロでな」 
 そうした状況に陥っていてというのだ。
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