第三章
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たまたま近所に住んでいた部下だった彼が丹波のところに来て話した。今は何でも工場で働いているとのことだ。
「川上さん軍隊できつくあたった人全員にです」
「謝って回ってるんだな」
「丹波さんのところにも来ましたね」
「来たよ」
丹波はその通りだと答えた。
「そっちにも来たんだな」
「俺も殴られましたからね」
だからだというのだ。
「来ましたよ」
「そうか、あの時は仕方なかったと言って謝ったらな」
「戦争中で軍隊のことで」
「そうされたらこっちも許すしかないしな」
「それで言われなくて済みますね」
「平和な中で生きていくにはな、しかし」
丹波は腕を組みどうかという顔になって述べた。
「いい気分はしないな」
「そうですね」
部下もそれはと頷いた。
「本心じゃないですし」
「謝って何も言わせない様にしてな」
「誰にもそうしていますから」
「頭がいい、そして」
丹波はこうも言った。
「人間の本性ってのが見えたな」
「川上さんのですか」
「川上さんを通じて人間のだよ」
こう言うのだった。
「いい意味じゃないそれがな」
「見えましたか」
「君も見ただろ、あれがな」
「人間の本性ですか」
「立場によって相手によって状況によってころころ変える」
態度をというのだ。
「それもだよ」
「人間の本性ですか」
「言われるまでに動いたりもして、いやいいものを見たよ」
丹波はこうも言った。
「本当に」
「そうですね、人間の本性を見たんですからね」
「そうだよ、このことを忘れないと大きいな」
こう言ったのだった、川上が去った後で。
丹波は後に川上のことを何かと聞いた、そしてだった。
現役時代チームプレイなぞ全くしなかった彼が監督になって言い出したのを聞いても驚かなかった、ただこう言うだけだった。
「あれが人間の本性だよ」
「川上さんのですか」
「そして人間の」
こう言うのだった。
「それなんだよ」
「あんなのですか」
「悪い面だよな」
「正直見て聞いていい気分はしません」
「誰だってな、けれどああしたものものもだよ」
「人間の本性なんですね」
「立場によって言葉は振る舞いをころころ変えるのもな」
川上がそうしている様にというのだ。
「それで時には」
「それで頭を下げたり偉そうにするのもですか」
「そうだよ、人間の本性だよ」
「醜いんですが」
「醜いのもそうさ、人間は色々な面があるだろ」
いい面そして悪い面がというのだ。
「それであの人は見せてくれてるんだよ」
「人間の本性をですね」
「それをよく見ておくことだよ」
「それで人間の本性を知ることですね」
「よくな」
こう言うのだった、川上を見て。
丹波哲郎は俳優として名
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