第三章
[8]前話
「まさに」
「わしはそうした天下にしたい」
勝家に微笑んで話した。
「そう思い治めておるのじゃ」
「そうですか」
「むしろあの百姓がじゃ」
「外で堂々と寝ていることをですか」
「望む」
こう言うのだった。
「むしろな」
「そうですか」
「だからな」
「あの百姓はですか」
「よい」
微笑んだままの言葉だった。
「そのままでな」
「左様ですか」
「むしろな」
「民百姓が何時でも外で寝られる」
「そんな天下にするぞ」
こう言うのだった、そしてだった。
信長は領地を見て言った、そしていいところも悪いところも見てそのうえで政を進めることにした。
その話を聞いてだ、元康は都に来た家康に茶室で話した。
「竹千代の言う通りの御仁でおじゃるな」
「織田殿は」
「そうでおじゃった」
こう言うのだった。
「お主の言う通りのう」
「はい、あの方は民のことを考えてです」
「政をしておってな」
「そしてです」
家康は義元が煎れた茶を手にしつつ述べた。
「何をどうすればいいのか」
「わかっていてでおじゃるな」
「そしてです」
「しかと治めておられるでおじゃる」
「そうなのです」
「まだ天下は戦があるでおじゃるが」
それでもとだ、義元は話した。
「織田殿の領地は日に日に穏やかになり」
「豊かになっていますな」
「そうでおじゃる、織田殿は民が軒下で寝ているのをでおじゃる」
勝が無礼だと言ったことをというのだ。
「怒らぬどころか」
「今川様もでしたが」
「ただ麿は小さなことと思ってでおじゃる」
義元も善政を敷いていた、それでそうしたことも弁えていたのだ。
「それで怒らなかったでおじゃるが」
「織田殿におかれましては」
「それどころかでおじゃる」
「民が外で寝られる」
「そこまで穏やかにしたいと言われたでおじゃる」
「それが織田殿です」
「そうでおじゃる、麿より上でおじゃる」
義元は感嘆して述べた。
「まことに」
「そう言われますか」
「わかったでおじゃる、織田殿を侮ったのは麿の不明」
今度は目を閉じて語った。
「反省するでおじゃる」
「そうですか」
「そして天下が泰平になることを願うでおじゃる」
義元に言ってだ、そうしてだった。
彼は自分の茶も飲んだ、そのうえでこれからさらに泰平になって欲しいと家康に言った。信長の手によって。
信長の理想 完
2023・7・13
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ