第三部 1979年
姿なき陰謀
如法暗夜 その1
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わからぬようにな……」
榊は、さっそくに、いぶかり顔をしてみせた。
だがマサキには、他人事であった。
彼には苦笑ものらしい。
「今、米国では新型の戦術機のソフトウェア開発が進んでいるらしい」
「新型?」
マサキの言う話は、おそらく本当の事だろう。
だが榊は、何となく、後味の悪さは拭いきれない顔つきだった。
「新型が何を意味するかは、分からん。
ただそいつは、想像を絶する性能を有したソフトウェアなのは、確かだ。
もし日本を通じて、ソ連の手に渡れば、これからの戦争は厳しいものになる」
脇で黙って聞いていた彩峰たちは、ぎょッと顔から顔へ騒めきを呼び起こした。
明らかなうろたえが表に出た。
しかしマサキは、気に掛けなかった。
「俺の方では、2か月前から、そいつを追いかけていた。
やっと、西ドイツと日本からの技術流出が影響しているらしいことが、分かったのだ。
そうなる前に、俺が新しい電子機器の会社を立ち上げて、奴らを潰す」
榊は、一驚した。
「どうして、私たちにそんな事を!」
「榊、お前は俺に関係したときから、すでに後戻りのできない修羅の道に入り込んでいる」
ぐっと、みな息をつめ、そしてどの顔にも、青味が走った。
「お前の妾も同じだ。
ならば……天のゼオライマーという庇護のもとに、権力をその手でつかめ」
マサキの思わぬ一言に、さすがの榊も、胸を掻きむしられた。
やはり彼も妾の祥子を愛していたというほかはない。
こんな愛憐を一人の女に集中して、理性も何も失いかけるなどは、これまで彼も覚えなかったことだろう。
とつぜん、自分の中の埋火があげた炎に、困惑していた。
……いつの世も愚鈍な大衆を導くのが、政治家の役目。
そんな使命を担う自分が、私情を持ち込むなんって……
しばしの沈黙の後、マサキは懐中からホープを取り出した。
煙草に火をつけて、燻らせた後、
「おい女、お前は祥子といったな。
祥子、貴様には、俺が作る、電子機器の会社、国際電脳の表の社長になってほしい。
顔の知れた俺や、代議士の榊、軍人の彩峰では、司直の手から逃れられん。
一方、お前は、ただの妾だ。政治家の妻ではない。
……とすると、色々と議会などでは追及されにくくなる。
悪いが、貴様の命、この俺に預けさせてくれ」
マサキはちらりと、祥子の顔を見た。
祥子の顔はどこか、寂しそうであった。
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