第三部 1979年
姿なき陰謀
如法暗夜 その1
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が不意に、入ってきた。
「どうだった」
「いやはや、木原君、調べてみたがさっぱりだ。
西ドイツの政府職員名簿にないところを見ると、アリョーシャ・ユングというのは偽名だろうな。
ただ……」
「ただ?」
「親しくしている米国の友人に聞いたところによれば……
ユングと名乗る女性は、外交問題評議会という、ニューヨークの会合に、頻繁に出入りしているらしい。
会員制の会合で。政財界のお偉方を相手にしていて、紹介料は100万ドル以上からだそうだ」
「何!」
紹介料は100万ドルは、恐らく相手を欺く表向きの理由。
実際は、紹介者を通じて、簡単に入会できる。
会員となれば、専用のVIPルームで、何か秘密会合が持たれていることは間違いない。
「私としても、確証がつかめない。
彼も、うわさとして聞いた程度だからな……」
こういう国際的な対策に微妙な計を按ずるものは、さすがに鎧衣をおいてほかにはない。
マサキは、この諜報員の言を珍重して、すぐに対策をとることにした。
「白銀、大至急、ロールス・ロイスのシルバーシャドウを用意してくれ。
年式は77年型で、出来れば新車が良い……」
シルバーシャドウとは、ロールスロイスの高級サルーンである。
4段階変速ATで、エアコンディショナー搭載の最新車種であった。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「何、俺が乗り込んで、調べようっていうんだ。文句はあるまい」
そういって、タバコを懐中から取り出した。
話を、別なところへ持っていく手段である。
「鎧衣、俺に、三極委員会の人間を紹介しろ。
そうだな、若手の国会議員か、官僚でいいだろう」
言葉を切ると、タバコに火をつけた。
マサキは、紫煙を燻らせながら、自分の意識の中に思索していった。
BETAの戦いは、ただその屍山血河の天地ばかりでない。
今は外交に舞台を移し、その上での駆け引きや人心の把握にも、虚々実々が火花を散らし始めてきた。
着陸ユニットが支那に降り立った序戦と比べると、もう戦争そのものの遂行も性格も全然違ってきたことが分る。
すなわち、かつてのように部分的な戦勝や戦果を以て、祝杯に酔ってはいられなくなったのである。
いまや、東西両陣営は、その総力をあげて、BETAへの乾坤を決せねばならぬ時代に入った。
それと同時に、この東西冷戦という対立の形が、変化してきた。
世界各国は、一対一で戦うか、変じて、その二者が結んで、他の一へ当るか。
そういう国際的な動きや外交戦などに、より重大な国運が賭けられてきたものといってよい。
大戦の舞台裏には、なお戦争以上の戦争がつねに人智のあらゆるものを動員して戦っている。
その様な表裏の様相を、この時代の戦
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