第三部 1979年
姿なき陰謀
如法暗夜 その1
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あ、貴方は最初から東ドイツを乗っ取る気だったの!」
「そうだ。俺が書いた脚本通りで。
もっとも、お前の様な得難い存在を手に入れたのは予想外だったがな」
マライは、マサキの言葉にびっくりして、引き下がった。
「な、なんて人なの!」
途中、彼女の目が涙に潤んでいることに気が付いた。
だがそれについて、マサキは何も言わなかった。
「目的のためならば、国までを動かすなんて……貴方はとんでもない悪党ね」
マサキは、最初、見て見ぬふりをしていた。
ただの女の哀願も、切々と聞いている内には、マサキは一層、マライという女が憐れまれた。
嫌厭も憎しみも湧かず、いよいよ不憫を増すばかり。
男にとれば、強迫とも感じられるような、マライの烈しい紅涙。
それは、マサキを、だらしのない、懊悩に苦しむ男にしていた。
……そうだ。
それを悪というのならば、俺は悪党なのだ。
だが、正義とは何だ、悪とは何だ。
何も知らない頃だったら、法を犯せば悪党だった。
しかし、本当にそうなのだろうか。
自分の利益のために組織を動かし、損失をだせば、犯罪者。
だが、同じ理由にしても、組織に多大な利益を与えれば、英雄だ。
国家のために戦い、数千、数万の人間を殺せば、人は称賛されるのは青史が証明している。
ゼオライマーさえなければ、そんな事は疑問に思わなかったろう。
いや、この世界に来なければ……
心のささやきは、マライに決して届くものではなかった。
だが、マサキの偽らざる本音であった。
「先生、お呼びで」
訪ねてきたのは白銀だった。
「本当に、資料はこれだけなのだな」
マサキが白銀に問いただしたのは、ユルゲンに接触したアリョーシャ・ユングに対する情報であった。
西ドイツ総領事館の秘書官を名乗る、謎の女の事を、マサキは帝国陸軍の情報網で探索していた。
「涼宮君に調べさせたのですが……
当日の会合に出入りしていた、関係者の名簿はこれだけです。
詳しい内容は、シークレットサービスの管轄下で、これを持ち出すだけでやっとでした。
通常、こういう名簿は国務省の管轄なのですが、シークレットサービスとなると……」
「つまりは、正規の職務とは別に、何者かが動いているという事か」
マサキは色を失った。
マサキとてそれを考えていないではない。
だが、白銀が心の底から将来の禍いを恐れている。
その様子を見ると、彼も改めて、深刻に思わずにいられなかった。
白銀は、さらに言った。
「僕の推測によれば、ベルンハルト大尉と会っていた人物は、既に西ドイツに出国した後かと」
「俺は、いささか悠長に事を運び過ぎたのかもしれん」
そこで暫し歓談をしていると、鎧衣
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