第一章
[2]次話
名犬とわかるにも
ふわりはとても優しく大人しく人懐っこい、そして活発で明るい娘だ。しかも愛嬌がある娘なので。
「名犬よね」
「そうだな」
ふわりの家族である国咲家の父である文太は妻の百合子の言葉に頷いて応えた。
「まさにな」
「そう言っていい娘よね」
「賢くて優しくてな」
「大人しくてね」
「とてもいい娘だ」
「だからね」
そうした娘だからだというのだ。
「こんないい娘いないとさえよ」
「思うな」
「私はね」
「俺もだ」
夫は妻に確かな声で答えた。
「本当にな」
「そう思うのね、あなたも」
「そう思わないでいられるか」
それこそというのだった。
「ふわりを見て一緒にいるとな」
「そうよね」
「名犬といっても色々でな」
「ふわりも名犬ね」
「本当にこんないい娘はいないぞ」
妻に断言して答えた。
「絶対にな」
「そうね、ただね」
「ただ?」
「何であの人達はね」
ふわりの前の飼い主である百田家の夫婦のことをここで思い出した、もうこの世にいない彼等のことを。
「ふわりを捨てたのかしら」
「こんないい娘をか」
「いつも思うけれどね」
「だからあれだ、あいつ等にとってはおもちゃだったんだ」
「ふわりは」
「それで自分の子供もな」
ふわりだけでなくというのだ。
「結局はな」
「おもちゃだったのね」
「他の何でもなくてな」
「おもちゃに過ぎなくて」
「だからな」
その為にというのだ。
「ああしてな」
「簡単に捨てたのね」
「もういらないとか言ってな」
「おもちゃだからいらない、って言えたのね」
「何も思わなくな、可愛がっていてもな」
そうであってもというのだ。
「それはおもちゃとだ」
「遊んでるだけね」
「それだけでな」
「別のおもちゃが手に入ったから」
「自分達の子供がな」
「それで邪魔になって捨てたのね」
「朝から晩まで吠えるなんてな」
彼等がふわりを捨てた理由についても話した。
「ずっとケージに入れて世話しなかったらな」
「ご飯あげるだけで」
「誰でもそうなる、散歩どころかな」
それこそというのだ。
「一日中ケージに入れてな」
「そこから出さないで」
「見向きもしないとな」
「吠えるわね、誰でも」
「本当におもちゃとしか思っていなかったんだ」
ふわりをというのだ。
「それでだ」
「ふわりがどんな娘か」
「全くわかっていない、わかろうともな」
「していなかったのね」
「そうだったんだ、それでな」
「ふわりを捨てたのね」
「百点の奴のことを零点の奴がわかるか」
夫はこうも言った。
「もうそれはな」
「言うまでもないわね」
妻もそれはと答えた。
[2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ