第二章
[8]前話
「無実にしたけれどそいつ死刑にならずに」
「出所するのよ、今度」
「死刑にしなさいよ、死刑に」
千歳は怒りに満ちた声で言った。
「そんな奴はね」
「そうね、けれど」
涼子は千歳の言葉に頷きつつだった。
彼女の顔を見た、すると。
右目を顰めさせ整えた眉の形も歪んでいて口元も怒りでそうなっていて歯が見えていて。
顔中に青筋が浮き出ていた、涼子は千歳の今の顔を見て言った。
「あんた凄い顔になってるわね」
「そう?」
「怒ってね」
そうなってというのだ。
「不良漫画みたいになってるわよ」
「あっ、確かに」
「今の千歳ちゃんそうしたお顔ね」
「凄いお顔よ」
「本当にね」
「いや、ついね」
千歳も言われてこう返した。
「怒ってね」
「普段のぶりっ子じゃなくて」
「憤怒が出たのね」
「そういうことね」
「ええ、私そうした奴大嫌いだから」
人を何人も殺す様な凶悪犯はというのだ。
「だからね」
「それでなのね」
「そうしたお顔になったのね」
「そうよ、本当にね」
こう話すのだった。
「ちょっとね、けれどね」
「気を取り直して」
「それでなのね」
「ぶりっ子に戻るのね」
「そうするわね」
実際にこの言葉から一瞬でぶりっ子になった、だが。
涼子はその千歳にだ、冷静な顔で言った。
「まあそれもあんたね」
「怒るのも」
「ええ、所謂変顔になっていたけれど」
それでもというのだ。
「それもまたね」
「私っていうのね」
「ぶりっ子もあんたで」
「怒って変顔になるのも」
「あんたね、ぶりっ子はファッションでもね」
「私は私ってことね」
「怒ったあんたもね、じゃあそういうことでね」
それでというのだ。
「デュエットする?」
「いいわね、じゃあね」
ぶりっ子で応えた、そうしてだった。
デュエットをした、その時の千歳はぶりっ子だった。表情もそうなっていて変顔ではなくなっていて普段の彼女だと皆思ったのだった。
ぶりっ子の変顔 完
2023・12・20
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