第94話 愛情と友情
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ご息女が軍人とは別の、もっと平穏な生き方を選択したほうが良いと思わないでもないですが、どうか彼女の人生の選択を真っ向否定なさるのだけはお止めください」
アイリーンさんにしてみれば、夫だけでなく一人娘まで軍に奪われることになる。俺が軽い頭をいくら下げたところで、アイリーンさんが納得するようなものではない。ましてや原作通りに未来が進むとなれば、ブライトウェル母子の人生には『とてつもない暗雲』が、これでも足りないかと言わんばかりに待ち構えている。その時に嬢が軍に所属していたほうが……せめて爺様かヤンか俺の直属の部下であれば、何とか潜り抜けられるはずだ。
「ブライトウェル伍長」
俺は不安と困惑の文字が顔に浮かんでいるブライトウェル嬢に向き直った。
「第四四高速機動集団司令部は、着任以来の貴官の、多大なる貢献に感謝している。ありがとう」
敬礼ではなく最敬礼で。俺はブライトウェル嬢に対する。
「貴官がこれからの人生で艱難辛苦にある時、貴官が助けを呼べば必ず司令部の誰かが救いに行く」
実際どうなるかはわからない。爺様は理由不明で総司令部に呼ばれているし、部隊が解散すれば空手形だ。
「貴官は一人の軍人として何ら恥じるところはない。第四四高速機動集団司令部の一員としての誇りを胸に、自ら正しいと思う道を堂々と生きてほしい。これは小官だけではなく、司令部全員が願っている」
言い終えた後で二人を見ると、目に涙が浮かんでいる。別に泣かすつもりはなかっただけに、こちらが困惑する。今度はアイリーンさんの方から手が伸び、俺の両手をがっちりと握りしめる。
「ありがとうございます。ありがとうございます……」
俺に向かって頭を下げながら、ただひたすらそう言うアイリーンさん。ほんの僅かな肯定と空手形になりそうな援助。ブライトウェル母子がこれまで世間から浴びせられた全く正統性に欠ける批判や中傷の大きさが分かろうというもの。
あの時、軍も嬢を軍属にして暗黙の保護下に置いて、報道などからの直接的な中傷を浴びせられないようにするのが精一杯だった。急転するエル=ファシルの状況にまともな救援部隊を出せなかったという弱みもある。国家と組織の防衛の為にも必要以上にヤンを英雄として祭り上げ、逆にリンチを貶めなければならなかった。
数分もそうしていただろうか、ブライトウェル嬢がアイリーンさんを促し、俺の両手はようやく解放された。
「じゃあ、ブライトウェル伍長。三日後にまた司令部で。それまでゆっくり休んでくれ」
「はい。ボロディン少佐も……」
今度は敬礼で応えると、母子はこちらを伺いながらも人込みの中へと去っていく。二人の背中が見えなくなるまで見送ると、改めてベンチに腰を下ろし天井を見上げる。
ブライトウェル嬢が士官学校に無事合格
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