第94話 愛情と友情
[2/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
高い照明の奥にある空を映す、ガラスの天井の向こうに張り付いてこちらから見ているように思える。
「こちらにおいででしたか」
アントニナは士官学校で、イロナとラリサは学校でいない。歓楽街以外で若い女性に声をかけられる予定はなかったので顔を上げると、そこには笑顔を浮かべるブライトウェル嬢と嬢によく似た壮年の女性が立っていた。顔にはだいぶ苦労が刻まれているが見覚えはある。ケリム星系にいた時には何度もお世話になった。
「アイリーンさん」
「お久しぶりです。ボロディンち……少佐」
「『中尉』でいいですよ、ご無沙汰しております」
敢えて敬礼せずベンチから立って、俺はブライトウェル嬢の母親であるアイリーンさんと握手する。まだ五〇代にはなっていないはずなのに、手にも皺が寄り、血管が浮き上がっている。
エル=ファシルの英雄が誕生して既に二〇カ月。未だにヤンの名前は世間を騒がせているが、リンチ少将の名前はようやく闇の中へと消えつつある。エル=ファシル星系への帰還事業もカプチェランカ星系会戦の勝利の裏に隠れる形となり、ブライトウェル親子に纏わりついていたイエロー・ジャーナリズムの影はもうない。だがアイリーンさんの顔には陰りが見える。
「娘がこの度の出征で少佐には大変お世話になったようで……ご迷惑をおかけして申し訳なく」
「そんなことはありません。逆にご息女には司令部要員全員がお世話になりました。ご息女のアイデアが部隊を救ったこともあります。こちらこそお礼を申し上げたいくらいです」
まるで中学校の進路を巡る三者面談。内容もおそらく同じ。だがアイリーンさんからこの場では口にはできない。あまりにも戦勝の雰囲気が周囲に漂っているがゆえに。
「『特別な配慮』などする必要もなく、ご息女の学力と体力と精神力は、士官学校入学に十分値するものです」
「……ええ、よく、出来た娘だと思いますが」
「士官学校に入学した後、ご息女はきっと苦労されると思います。その点、お母様としてもご懸念・ご心配される通りだと思います」
カステル中佐の言う通り、ただでさえ出世レースの前哨戦みたいな士官学校。ビュコックの爺様とディディエ中将以外、有力な後援者のいない彼女がリンチの娘というだけで『公敵』としてイジメの標的となることは十分考えられる。特に士官学校はハイスクールとは違い、かなり閉鎖的な環境だ。イジメはより陰険で苛烈になるかもしれない。だが……
「ご息女は他の大多数の候補生とは違い、既に一〇数度に及ぶ実戦を経験しております。陸戦部隊上級士官の手ほどきを受けており、素手でも半個分隊(四・五人)は叩きのめせるでしょう。それ以上の候補生がご息女に暴行を加えるような真似をするのなら、第四四高速機動集団と第五軍団が容赦しません」
「……」
「小官としても
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ